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Second Life「企業が続々参入」の舞台裏

 あの有名企業までSecond Lifeに参入し、仮想店舗でプロモーションを始めた――そんなニュースが相次いでいる。だが華やかな報道でSecond Lifeに触れ、実際にログインして仮想店舗を訪れてみると、拍子抜けしてしまうユーザーがほとんどかもしれない。


 三越、野村証券、ソフトバンクモバイル、ブックオフコーポレーション、エイチ・アイ・エス(HIS)、NTTドコモ、テレビ東京……8月21日昼、記者は有名企業のSIMや仮想店舗に改めて訪れてみた。最も人が多かったのはHISの3人、ほかは1~2人で、NTTドコモには店員しかおらず、ソフトバンクモバイルや野村證券には誰もいなかった。平日の昼間ということもあるだろうが……

 各社とも店舗はそれぞれ凝った作り。動画が再生できたり、無料アイテムがたくさん置いてあったりするのだが、とにかく人がいない。アバターがたくさん立っていて「にぎわってるなぁ」と思っても、よく見たらはりぼてだった、という漫画的なオチがつくことも多い。

 店舗や独自SIMを作っても人は来ない――これはいまに始まったことではなく、日本企業の「Second Lifeラッシュ」が始まった今春から変わらない、仮想世界の風景。新規参入する企業は、先輩企業の仮想店舗に人が来ない様子を見ているはずだ。

それでも企業が次々とSecond Lifeを目指す。それはなぜだろうか。都内の広告関連企業で、企業のSecond Life活用に関わってきた2人に、匿名で舞台裏を明かしてもらった。

●経済紙の報道、企業幹部を動かす


 企業がSecond Lifeプロモーションを考え始める最大のきっかけが、経済紙の報道だという。今年初めごろから経済紙には「Second Lifeは世界で何百万人ものユーザーが利用して大人気。大企業の参入が相次いでいる。仮想通貨を現金に換える仕組みがあり、次世代の新ビジネスが期待できる」などいった記事がひんぱんに載っており、企業の参入事例も大きく取り上げられる。

 「Second Lifeが米国から日本に入ってきたときの報道のされ方が、そもそもいびつな流れの原因だと思う。ユーザーがいかに楽しんでいるかではなく、大企業が参入し、お金が動き、億万長者になったユーザーがいる、という面ばかり強調されてきた。その文脈が国内の報道でも続いている」

 さらに、Second Lifeにビジネスチャンスを見出した大手広告代理店が、企業や媒体にSecond Lifeの可能性を説いて回るなどして報道がヒートアップ。3Dアバターで企業SIMを飛び回るビジュアルは何よりインパクトがあり、分かりやすい。報道を見た企業幹部や広告宣伝担当者などが興味を持ってSecond Lifeプロモーションを検討し、広告関連企業に相談を持ちかける──という流れだ。

 2人はこういった相談を何度となく受けてきたという。「ジャンルを問わず、さまざまな企業の相談に乗った。『社長や取締役がSecond Lifeで何かやれと言っているんだが、Second Lifeとはいったい何なのか説明してほしい』といった依頼が多く、ノートPCを持って説明に走り回り、Second Lifeの世界を見せて回った」

●人はいなくてもSecond Lifeを使いたい

 「Second Lifeに人はいない」――2人はそう感じている。相談を持ちかけてくる企業の担当者には、最初に「Second Lifeにはあまり人がいないから、参入しても来訪者数は期待できない」と説明するという。

 Second Lifeはそもそも、ユーザー数が少ない。総登録アバター数は、8月21日時点で約900万に上るが、米Linden Labの発表によるとアクティブアバターは49万(7月時点、当時の登録ユーザーは773万、アクティブ率約6%)で、うち日本人は2万7000に過ぎない。

 世界の同時接続ユーザー数は常時3万前後と総アクティブアバターの5%程度だから、日本人アバターの同時接続数は推計約1300人。常時数万人が接続する人気MMORPGと比べても人口は極端に少ない。加えてSecond Lifeには、1つのSIM(島)に入れる人数が50人程度という極端な制約もある。マスを対象にした大規模なプロモーションはそもそも難しい。

 それを知った上でも、プロモーションに活用してみたいという企業は多いという。「企業SIMへの来訪者数だけがすべてじゃない」。背景には、企業の広告戦略の迷いと、3次元インターネットという“次世代”にキャッチアップしておきたいという思いがある。

●Web広告は「新しいもの」が熱望されている

 テレビCMなど既存媒体の広告効果が低下し、「広告が効かなくなっている」と言われる今、どんな広告なら効果があるのか――企業は迷いながら、新しい媒体であるWebに大きな期待を寄せているという。

 「広告はそもそも、効果測定が難しい。『この広告で売れた』とはっきり分かる場合を除くと、CMが流れた回数やバナーのクリック回数、宣伝の話題性などが購買にどう結びついたかとらえるのは困難だ」

 「何が効果的か分からない中、それでも何かやらなくてはいけない宣伝部は、常に霧の中を歩いているようなもの。だから広告の現場では、『これをやるべきだ』というコンセンサスや、『やってよかった』という納得感こそが、前に進んでいくために重要になる」

 「コンセンサスや納得感を求める中で“新しいこと”が何となく力を持つ。広告担当部署は新しいことを切実に求め、『新しいことをやれ』と上からも言われる。そういう状況でたいてい、Webというキーワードが浮上してくる」

 新しいことへの期待を一手に引き受けるWeb広告業界では、定期的に新手法の“熱病”が広がるという。「Second Lifeの前はmixiコミュニティーやブログを使ったバイラル広告、その前はWebシネマ……それこそバナーより効果が薄いんじゃないかと思うような手法にさえ注目が集まり、企業がこぞって投資する。“広告”という霧の中を歩く不安な気持ちから」

 「経済紙でも話題の新しい手法」というだけでコンセンサスを得やすく、広告予算を通しやすい。新しいことにチャレンジすれば先進的な企業というイメージもアピールできるし、メディアに報道されればパブリシティ効果も期待できる。

 Second Lifeに1つのSIMを作成する際の予算は1000万円前後といい、「Flashばりばりの本格的なプロモーションサイト10ページ分程度」。どうせ効果が分からないなら、プロモーションサイトという旧来の手段より、新しいことにチャレンジしたいというのが宣伝担当者の人情だ。

 「実際にリーチできた人数は分からなくても、話題になって経済紙などに取り上げられれば費用対効果も十分。新しいことができた、広告を出してよかった、という納得感につながる」

 新しい場に出せば、これまでとは接点の違うユーザー層にもリーチできるという面もある。「場合によっては、バナーで1000人の目に一瞬留まるよりも、Second Lifeを利用している、ITに詳しく情報波及力のある10人に深い体験をしてもらった方がいい、という考え方もある」

●“3D広告の実験場”も

 企業SIMは、1日コンスタントに数十人訪れれば成功。数百人も訪れれば大成功で、「Second Lifeは人がいないと聞いていたのに意外とたくさん来てくれるじゃないか。これなら上に説明できる」と担当者も安心するという。「支店を全国展開している大企業のフランチャイズで、1日当たり100人も来ないようなリアル店舗は実際にある。バーチャルリアリティー空間で1日100人、200人来れば、すごいと言える」

 「来訪者数だけがすべてじゃない」――Second Lifeには、3次元仮想空間マーケティングの“実験場”という意味もある。ネット上で3次元空間が当たり前になる未来を前に、Second Lifeを使ってマーケティングを試しておきたいという企業は多い。

 例えば、実店舗とECサイトを持っている企業にとって、実店舗のように「いらっしゃいませ」と客に言え、商品を見せながらリアルタイムコミュニケーションできるSecond Lifeは、未来のECサイトを試せる新しい場だ。

 「検索で企業サイトに来てもらう場合と違い、Second Lifeなら何となく立ち寄ってもらえ、実店舗に近い。1回来てもらえれば10~20分とじっくり見てもらえるなど、仮想空間ならではの行動も見られる。国内で3D仮想空間を試せるのは、現状ではSecond Lifeしかない」

 そもそもWebに積極的な企業は、新しい場に人が来ないことには慣れており、SIM来訪者が少ないこともそれほど問題視しないという。「Web黎明期からECサイトを作った企業は『ネットで物が売れるわけない』と言われ、実際に売れなかった経験もあるが、いまはもうかっている。その経験を踏まえて『3Dネットで商売するなら一番最初になりたい』と考え、人がいないと分かっていてもSecond Lifeを試そうとする」

●Second Lifeへの企業参入、来年3月までは続く

 Second Lifeへの大企業の参入は、これからもしばらく続きそうだ。国内企業の参入は今年3月ごろに始まり、それを見て検討した企業が夏までに参入を終えた。「ぐずぐずしていた企業が」10月以降に参入。それを見た企業がまた参入を決める――というサイクルで、来年3月ごろまでは参入が続く見通しだという。

 その後どうなるかは「運営元のLinden LabがSecond Lifeを使いやすくするかどうかにかかっている。ただLindenは、誰も来ないサーバ(SIM)をすでにたくさん持っていて、それだけでもうかっているはずなので、これ以上頑張る必要はないのかもしれない」

 Linden LabがSecond Lifeの操作性を改善せず、その結果ユーザーが増えず、目新しさもなくなってしまえば、企業にとっての魅力は薄れる。「最後は本当に3Dをやりたい企業だけが残るだろう」

 今から参入する企業へのアドバイスは、「やるならできるだけ早く。プレスリリースだけでも先に出したほうがいい」ということ、そして「Second Life内だけでなく、外からも見られる仕組みにしたほうがいい」ということだ。

 参入するなら、Second Lifeが新鮮なうちにアピールして先進性を打ち出しておくべき。また、人がいないSecond Life内でプロモーション効果を期待するよりは、Second Lifeでの展開を外部の企業サイトからも見られるようにするなど、Second Lifeユーザー以外にアピールする手段を作れば、より大きな効果が期待できるという。

 ただ、以前と比べると最近は、Second Lifeに関する報道や企業参入もだいぶ落ち着いてきてた。「そろそろ次の熱病が来るかも知れない。次は何だろう……携帯電話コミュニティーなどが流行しそうな気がする」
(2007.8.23/ITmediaニュース)

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