chumby――米国生まれの情報端末に家電の未来を見る






 FOOキャンプで産声を上げたchumbyは、これまでの情報端末の姿を変える可能性を秘めている。何より、開発元がハッキングを推奨するといういい意味でGeekのためのデバイスとなっているのが素晴らしい。

 読者の皆さんは、毎朝目が覚めたら、まず何をするだろうか。忙しい朝の時間、身支度や食事はともかくとして、外界とどのようにコミュニケーションを図っているだろう。

 PCのスリープを解除してメールをチェック。RSSリーダーを起動して今朝のニュースやブログをチェック。twitterで知り合いの動向をチェック。今日のTV番組表を見て録画予約を入れる――この記事を目にするような方であれば、こんな感じだろうか。

 朝の時間をあわただしく過ごす方や、さほどPCを活用されない方の生活だとどうだろう。「めざましテレビ」などの情報バラエティにチャンネルを合わせ、ゴシップやニュース、天気予報などを眺め、今日の占いに一喜一憂する。新聞を広げて昨日のニュースと今日のTV番組をチェック。その合間には、身支度を整えながら時間をチェック……。

 こうして見てみると、チェックするコンテンツというのは数多く存在していることが分かる。ITを駆使して情報収集するには多くのツールを自力で使いこなす必要があり、TVに頼れば情報の提示は放送局まかせで、選択できるのはせいぜいチャンネルくらいなものだ。

 いずれにせよ、もはやルーチンワークと化したこれらの行動を、いままでと違う形で手助けしてくれるデバイスがある。chumbyだ。

●chumbyの誕生

 2006年8月、ティム・オライリーの仕掛けるFOOキャンプに参加した人間は、幸運としかいいようがない出来事に遭遇することができた。

 FOOキャンプは、O'Reilly社の仲間と認められた人だけが招待される特別なパーティーで、数百名の参加者はオライリー出版のキャンパス内にテントを張ってキャンプを楽しみつつ交流を深めていくイベント。2006年のFOOキャンプでは、以前からFOOキャンプに参加していた現chumby社の主要スタッフらによって、すでにアイデアとして存在していたchumbyが参加者の眼前に実体を伴って登場したのだ。

 まだ手作りのプロトタイプではあったが、chumbyを前に参加者は驚喜した。その模様は、ディム氏自身によって“The birth of Chumby”という一文にまとめられている(yomoyomo氏による日本語訳もある)。

 chumbyは無線LAN内蔵のLinux PDAに、ふわふわの着ぐるみを着せたようなデバイスで、ハードウェア/ソフトウェア的には、特段に変わったところはない。ホームページにも「hackable」と書かれていることからも分かるとおり、搭載されたadobeのソフトウェアを除くと、ハードウェア設計も内蔵ソフトウェアもすべて公開されており、開発者はhackを楽しむことを推奨されている。

 FOOキャンプの後、chumby社は、ベンチャーキャピタルから500万ドルあまりの資金を得て、プロトタイプ数百台をハッカー向けに無償で配布し、2007年10月からは量産モデルを有償(180ドル程度)ではあるが開発者向けに配布を開始している(※いまのところ、米国国内への発送しか受け付けていないため、日本から入手するには発送代行を行ってくれる業者に頼む必要がある)。なお、近日中に一般商品としての販売を開始するというアナウンスが行われているが、いまのところその日程は明確になっていない。

 市販化を目前にしたchumbyは何を目指しているのか。それを確かめるべく、chumbyを入手してみた。

●ポーチのようなカワイイ系デバイス

 送られてきたchumbyは、布製の巾着袋に入って届けられた。巾着袋を開けると、その中にはさらに2つの巾着袋と、簡単なマニュアルが顔をのぞかせた。2つの巾着袋の1つにはACアダプタが、もう1つにはアイコン系のキャラクターをあしらった3つのチャーム(キャラストラップ)が入っていた。どうやら幾つかの種類があるようで、どのチャームが入っているかはお楽しみ、といった感じだ。ここにも遊び心が見て取れる。

 chumby本体は以下の写真を見てほしい。サイズといい手触りといい合成皮革の化粧品ポーチを想像してもらえればよいだろう。そのポーチに液晶ディスプレイとスピーカー、USB端子をつけ、ACアダプタに接続すればchumbyのでき上がりだ。

 触覚からして柔らかく、ぬいぐるみのようなchumbyは思わず手にとってなでてみたくなる。一般的なPCや家電が発している、「無表情でなんだか難しそう」というオーラは皆無だ。

 ACアダプタを接続し(PSE認定を受けていないので代替品を使用)、電源を入れるとポップな起動画面の後、chumbyは動画と音声で自分自身の機能説明をはじめる。説明は、各開発スタッフの声と、各人を象徴するアイコンによって進められる。これまで、家電品が自分自身の使い方を説明するようなデバイスがあっただろうか? PCなら付属ソフトウェアで同様の機能を持つものもあるが、それを見てもPCを使えるようにはならない。

 DVDレコーダーや携帯電話など、高機能化したにもかかわらず、ユーザーインタフェースが洗練されていないため、その恩恵にあずかれないことも多い生活を送るわたしたちからすると、デバイスが自分自身の使い方を説明してくれるchumbyには新鮮な驚きを感じる。無人島に流れ着いた子どもが、自身の組み立て方を説明するロボットをたった一人で組み立てる矢野徹の『孤島ひとりぼっち』が思い出される。

 ひととおり機能説明や操作練習が行われた後、タッチパネルの設定、無線LANの接続設定と続く。驚いたことに、ここで無線LANの接続が行えないと、単体で動作する機能も含め、すべての機能が利用可能とならない。無線LANの環境が当たり前となっている米国らしい作りといえばそれまでだが、ここは改善の余地がある。

 タイムゾーンの設定を済ませると、chumby.comへのデバイス登録を行う。登録を後にするよう選択すると、目覚まし時計や、USB接続したiPod内の音楽を再生するプレーヤーといった、chumbyが単体で備える機能が利用可能になる。chumby自体は設定が完了すると時計表示になり、上部に埋め込まれたスイッチを押すと操作メニューが表示される。目覚まし時計はアラームを2つ設定でき、スヌーズ機能もあるが、再生音は3択だ。

 iPod miniをUSB端子に接続して、MUSICボタンを押すと、自動認識されて再生画面が表示される。曲の再生はアルバムやプレイリスト単位で指定可能で、任意の一曲を選択して再生したり、その場でプレイリストを作って再生することはできなかった。日本語表示は、曲名やプレイリスト名に入っている日本語部分は表示できず英字のみの表示になる。

 内部的にはiPod内のiTunesDBファイルをパースして曲やファイルをチェックしているので、単体でファイルとして置かれた楽曲はリストに表示されない。つまり、音楽ファイルが入ったUSBメモリやHDDなどを接続しても、音楽再生はできないということになる。iPodに特化した音楽再生機能というのは残念な部分だ。

●実はFlash Lite 3.0を搭載したネット端末

 ここまでであれば、少し珍しいだけのデバイスの1つで終わってしまうところだが、このデバイスの真価はまだ見えていない。内部ではLinuxが動作するこのデバイスの真価は、Flash Lite 3.0を搭載したインタフェースと、ネットワーク経由で機能追加できる点にある。

 chumby.comでデバイス登録を済ませると、ウィジットと呼ばれる無料のFlashアプリケーションがオンラインで入手可能となる。このウィジットをchumbyにダウンロードさせることで、さまざまな機能を追加できるのだ。

 ウィジットはchumby社や多くのユーザーによって、数多く登録されている。例えば、GoogleNewsやslashdotなどの各種ニュースサイトのチェッカー、着信メールの確認、天気予報、占い、flickrに登録された写真、eBayのオークション状況、世界各地のLiveCAMからの映像表示、facebookの情報表示といった具合だ。Flash Lite 3.0では、FLVの再生も行えるため、Youtubeの動画もコマ落ちなく見ることができる。

 残念ながら、現時点ではウィジットもメニューも日本語表示には対応していないため、日本でそのまま使うには無理があるが、日本国内のサービスに対応すれば、冒頭で挙げたような毎朝のルーチンワークがこの端末だけでできてしまいそうだ。

●自分で作ったウィジットを使ってみる

 Flash Lite 3.0が動作する携帯電話などが周りにすでに存在し、小型デバイスにも目の肥えた日本のユーザーからすると、ここまでの紹介では「chumbyのどこがいいんだ?」と思われてしまいそうだ。しかし、その判断を下すのはもう少しだけ待ってほしい。

 ウィジットがFlashアプリケーションであることはすでに述べた。このウィジットを自分で作成してchumby上で実行させることで自分のためだけにカスタマイズされたchumbyが誕生するのだ。

 本格的なウィジット作成には、Adobe Flexなどが必要だろうが、今回は、オープンソースのコマンドラインActionScript2コンパイラ「MTASC」(Motion-TwinActionScript 2 Compiler)用い、よかひよかときさんの作成されたActionScriptプログラムを参考に、簡単なお絵かきウィジットを作成してみた。画面にタッチして線画を描くことができ、左上に画面を消去するボタンをつけた簡単なものだ。chumby.comのサイトでこのウィジットを登録し、自分のchumbyで表示してみると、きちんと動作することが確認できた。

 ウィジット作成時のパラメータは、サイズが320x240ピクセル、フレームレートは12程度、サイズは100Kバイト以下というのが推奨設定として挙げられている。今回は、お絵かき時の反応が悪くスムースな線が描けないため、フレームレートは30に設定してみた。

 作成したウィジットの登録には、ウィジット本体のほか、chumbyで表示するために使用するサムネイル画像(80x60ピクセルのJPEGファイル)も必要となる。また、ウィジットに独自の設定が必要な場合は、ブラウザから操作する設定専用のウィジットも登録できる。

 登録したウィジットは公開モードが選択できるようになっており、自作のウィジットを世界中のchumbyユーザーに公開することも可能だ。公開されたウィジットの利用者数は、ブラウザから確認できるほか、ウィジットに対するユーザーの評価はchumbyの画面や、PCブラウザのウィジット管理画面から送信できるようになっており、第三者のフィードバックが得られるようになっている。

 ウィジットの作成方法や、ファームウエアの変更手順、ハードウェアの設計情報などはWikiやフォーラムで多くの情報が公開され、ユーザー間で情報交換がされているので、参考にするとよいだろう。

●chumbyはどんな夢を紡ぐのか?

 正直なところ、chumbyのうわさをFOOキャンプ直後に聞いた時点では、わたしはchumbyにまったく興味を持っていなかった。特徴的な外見はともかく、ハードウェアそのものはPDA向けのリファレンスに近いのだから、わざわざ入手して遊ぶほどでもないと考えたのだ。むしろ気になったのは、chumbyがどのようなビジネスモデルで事業を行うのかだった。

 FOOキャンプから1年以上が過ぎ、本格的に製品を世に問おうとしている現在でさえも、chumby社がどのようにして利益を生んでいこうとしているのかは見えてこない。先述の“The birth of Chumby”の中でティム・オライリー氏は、『デバイスの価値は、ハードウェアではなく、ソフトウェアでさえもなく、ネット接続する新作ウィジェットを配信するサービスにある』と書いている。しかし、chumby社は現在、北米でブームになりつつあるデジタルフォトフレーム市場に乗って、広告配信によるビジネスモデルを考えている様子だ。インタラクティブなコンテンツを配信するという唯一の強みを生かしたビジネスモデルがうまく描けていない感があるのが残念なところだ。

 今回、実際にchumbyをさわってみると、ずっと昔、はじめてMacintoshとHyperCardに触ったときのような感触がわずかによみがえるのを感じた。パッケージングへのこだわり、コンパクトな概観、Flash Lite 3.0を使ったインタフェース――これらがかつての記憶を呼び起こしたのかもしれないが、それらを割り引いても、chumbyには何か未完成な魅力がある。その未完成な部分の埋め方によっては、今後の家電の進む方向を指し示すようなデバイスになる可能性を持っているように感じた。

 chumbyは、いい意味で、Geekが作ったGeekのためのデバイスだ。それは、未発掘の金鉱かもしれないし、単なるオープンソースのアダ花かもしれない。そのどちらにもなり得るchumbyだが、コンテンツの消費に慣れた日本でこそchumbyはその可能性を開花させるのではないだろうか。

 chumby日本法人設立の準備も開始されているそうなので、日本語化された製品が気軽に購入できる日も近いかもしれない。手元のchumbyをhackしながら、その日を楽しみに待ちたい。
(2008.2.4/ITmediaエンタープライズ)
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