電子マネーがヒット商品に選ばれた2007年。伸び悩むサービスの課題とは?






 PASMO、nanaco、WAONなどの新興勢力が登場、電子マネーやIC乗車券などさまざまなFeliCa決済が全国的に広まった2007年。2007年のヒット商品に「電子マネー」が選ばれるなど、今年はこれまでにないほど、FeliCa関連の話題が注目を集めた年だったといえます。2007年に起こったFeliCa関連の動きについて、ジャーナリストの神尾寿氏と、Business Media 誠の吉岡綾乃編集長が振り返ります。

●さまざまなFeliCaサービスが一般に広まった2007年

――2007年のFeliCa関連ニュースを振り返ってみると、PASMOスタートが非常に印象的です。

神尾寿(以下神尾) 鉄道系ICの広がりが顕著でしたね。今年はSuica&PASMOから1年が始まった気がします。

吉岡綾乃(以下吉岡) 3月にスタートしたPASMOとSuicaの相互利用(参照記事)ですね。

神尾 その後、流通系電子マネーとして、セブン&アイグループのnanaco(参照記事)、イオングループのWAON(参照記事)の発表が続き、Business Media 誠の創刊(4月2日)とちょうどシンクロしました。最初期の誠では、PASMOとnanacoの記事が非常に注目されていましたよね。夏頃からFeliCaが使える場所が全国的に急増しましたし、そういう意味では、今年はFeliCaのサービスが本当の意味で「一般に広がった年」になりましたね。

吉岡 そうですね、交通系の次には流通系と、ニュースがどんどん続いて。ここ数年、年の瀬になるたびに「来年はFeliCaが本格的に普及する年になる」と毎年言い続けていた気がしますが、2007年こそはホントに普及し始めたと言えそうです(笑)。

――夏には複数の決済方式を導入するコンビニも出てきました。

神尾 FeliCa決済の面的な広がりとリーダー/ライター共用化の流れがちょうどシンクロして、2006年までは“先進的な取り組み”だったFeliCaや電子マネーの利用場所が、特別なものではなくなりました。

吉岡 プリペイド電子マネーでまずは体験して、徐々にポストペイ(クレジット)へ移行するという流れは悪くないと思います。象徴的だったのが名古屋の事例(参照記事)ではないでしょうか。もともとEdyが強かったところに、ドコモがiDを入れていき、さらにトヨタファイナンスがQUICPayをガツンと入れた。名古屋のいろいろなところで、「Edy/iD」や「Edy/QUICPay」の端末を見ました。

神尾 プリペイドとポストペイの関係は、“移行”じゃなくて“並列”かなあと、最近は思っています。

――Edyの存在感が、やや薄まってきているということはありませんか?

神尾 ヘビーなEdyユーザーの一部がポストペイに移行しているんですよ。Edyだけだった(かざすだけで支払いが完了という)メリットが、ポストペイや他のFeliCa決済に広がったので、Edyに限らず自分に合ったものを選ぶようになったわけですね。

吉岡 Edyをサービス開始当初から使っていた人たちは、複数の決済手段を使っている印象がありますね。

神尾 そういう意味で、やはり“並列・併存”になっていくのかなあ、と。Edyを完全にやめて、他の方式だけってことはないと思いますよ。特にプリペイドとポストペイは補完関係になりますから。逆にポストペイ同士は、共用化が進めばどちらかに偏る傾向はありますが。

吉岡 Edyには強力にバックアップしてくれる企業がいないのが、印象が薄くなった原因ではないかと思います。ドコモがiDを始めたら、Edyを贔屓にしてくれなくなりましたから。Suicaやnanacoなんかと比べると、Edyは良くも悪くも中立的な立場ですよね。

神尾 中立的というか、これまで選択肢が少なかったから、必然的にEdyが使われていた、という面はあると思いますよ。

――iDは、どんどん広がった印象がありますね。

神尾 例えば、ANAマイルで考えると分かりやすいんですけど、今までANAマイラーにとっては、EdyをANAカードでチャージすることでポイント(マイル)を獲得し、Edyを利用してまたマイル獲得する、というのが黄金パターンだったんです。でも、三井住友カードが、Edyチャージに対するポイント付与をやめることで、今後はANAカードのiDを使った方がマイルを獲得しやすくなるわけです。ANAマイラーにとって、EdyだけがFeliCa決済の黄金パターンではなくなるので、今後はANA-EdyとANA-iD派に棲み分けされていくのかなあ、と予想しています。

吉岡 夏から秋くらいにかけて、Edyチャージでポイントが付くカードがだんだん減っていって、陸マイラーにとってEdyの魅力が減ってしまった、という面はありますよね。あと、その前の段階ですが、やはりおサイフケータイにEdyのアプリがプリインストールされなくなった(http://bizmakoto.jp/makoto/articles/0711/30/news149.html)のは痛かったと思います。発行枚数の累積は、さすがにまだEdyがトップなんですが。

神尾 ポイント/マイルの面でEdyの優位性が減少したのは、例の貸金業法改正の動きなども影響しているわけですが、こういった流れが、Edyの一極集中を相対的に抑制していくのでしょうね。

吉岡 EdyはFeliCa決済としては最古参ですが、利用件数ではnanacoに抜かれてしまったし、Suicaとは毎月競っている状態です(参照:FeliCa決済最新利用状況)。Edyが苦戦しているというよりは、nanacoの伸びがすごすぎるのかもしれませんが。

神尾 Edyは今後、他社のポイント/マイルに頼らない実力・魅力をつけないといけないでしょうね。SuicaやPASMO、nanaco、iDには、それがあるわけですから。

●モバイルSuicaの便利さ、お得さが知られていない

――Suica、nanacoは成功しているといえますか?

神尾 Suicaは成功しているでしょうね。モバイルSuicaはまだ苦戦していますけど。nanacoは、第1段階は成功しましたね。だけど次のステップが課題です。

吉岡 SuicaやPASMOは、割引がまったくないにもかかわらず、文句はほとんど聞かれませんよね。首都圏以外では割引システムを組み込んでいるものも多いのですが。SuicaとPASMOは相互乗り入れができるし、加えて電子マネーとしても使えるから、それでほぼみんな満足しています。

神尾 Suicaに関しては、東京圏だと利便性の方が重視されるんでしょうねぇ。でも確かに便利なんですよ(笑)。

――駅の周りやコンビニで使えて便利というように、ユーザーの満足度が高いのが勝因だということですね。

神尾 あとモバイルSuicaとVIEWカードの組み合わせだと、ポイントの付与率もいいし、すごくお得です。確かにSuicaそのものに割引はありませんが、モバイルSuica+VIEWカードならば、間接的な「お得さ」はあります。

――モバイルSuicaには、不正利用の問題がありましたが(参照記事)。

吉岡 モバイルSuicaは、利用者数がJR東日本の期待していたレベルに達していないうちに、不正利用の話が出てしまったのは痛いですね。

神尾 モバイルSuicaはいいサービスなんですけど、ローンチやプロモーションで失敗していますよね。はっきりいえば、マーケティングが弱い。来年は各種割引や新幹線対応も進むので、マーケティングをもっとしっかりやれば普及に弾みがつくと思うんですけど。

 あと、不正利用については報道のされ方に問題がありましたよ。あれはJR東日本も被害者なわけですから。

吉岡 不正利用の問題は、あくまでクレジットカードの不正利用なんですけどね(参照記事)。Suicaのセキュリティに問題があったように受け取った人もいました。こんなことでSuicaに対するイメージが悪くならないといいんですけど。

――モバイルSuicaに限らず、おサイフケータイの利用はあまり進んでいないという印象ですが。

吉岡 初期設定や機種変更時の移行が難しすぎますよねえ。

神尾 モバイルSuicaの移行は簡単じゃないですか? ICアプリの中では簡単な部類だと思いますよ。ただ、ドコモの「iCお引っこしサービス」に対応してないのは痛いですが。

吉岡 おサイフケータイ全般として、どの機種も設定・移行はやっぱり難しいでしょう。設定さえしてしまえば、使うのは“かざすだけ”で非常に簡単なだけに、余計気になるんですよ。機種変更のときに電話帳がそのまま移行できるように、FeliCaサービスもそのまま移行できないと、広く普及するのは厳しいんじゃないでしょうか。誠でも「おサイフケータイの基礎知識」という記事を掲載しましたが、あの記事でもアプリをどう移行するかという話にはかなり行数を割いています。

――あの記事はページビューものびて、みなさん、おサイフケータイに興味はあるんだろうと思いました。でも、実際に使っている人はまだまだ少ないという印象です。

●モバイルSuicaの利用者数が伸びない理由は?

吉岡 モバイルSuicaといえば、「携帯の電池が切れたら改札通れないんでしょ?」という声を数え切れないくらい聞きました。

神尾 だから、 モバイルSuicaはマーケティングが下手なんですよ(苦笑)。基本的なことが伝わっていない。

吉岡 実際には、普通に使っていて電池が切れただけなら問題なく通れるんですけどね。

神尾 イメージ戦略が全然ダメなのが、とても残念です。モバイルSuicaは来年こそいけますかね? 個人的に、新幹線割引(参照記事)はかなりいいと思うのですけど。

吉岡 あとモバイルSuicaでは、「(VIEWカード以外のクレジットカードだと)どうしてお金がかかるの?」という声も多いですねぇ※。

神尾 見せ方の問題なんですけどねぇ。VIEWカードの方がかなりお得なんだから、そちらをしっかりPRすればいいのに。

吉岡 でも、「(専用)カードを買わなくていいんだから、モバイルならタダになるべきでしょ?」という声は結構多いですよ。例えばnanacoがそうですよね。カードを買うとお金がかかるけど、おサイフケータイで設定すればタダになる。その感覚なんでしょう。

――もっと効率的なPRを、ということでしょうか。

吉岡 モバイルSuicaは、使い始めると満足度はとても高いんですけどね。もったいないですよ。そういう意味で、今回の新幹線割引はアピールするんじゃないかと思います。

神尾 ちょっと脱線しますけど、女性はケータイをポケットに入れないでしょ?  だからモバイルSuicaだとあまり便利にならないってことはありますか? 男はケータイをポケットに入れているので、“サッと出せる”メリットが大きいんです。

吉岡 いえ、女性こそ便利だと思いますよ。定期ならパスケースに入れている人も多いだろうけれど、(SuicaやPASMOを)大きな財布に入れてる人も多いじゃないですか。あの大きな財布をバッグから引っ張り出さずに済むメリットは大きいですよ。それに、電車の中でケータイをいじっている率はものすごく高いわけですから。

神尾 そうですか、ケータイの方がサクッと出せますか。取り回しで考えると、むしろ女性の方にモバイルSuicaのメリットがあるかもしれませんね。じゃあ今度、誠で「女性のためのおサイフケータイ講座」をやりますか(笑)。

●「彼女といっしょにモバイルSuicaを使おうキャンペーン」?

――彼氏が設定してあげれば、使うんじゃないかな……。

吉岡 あ、それいいかも。

神尾 もちろん、読者が彼氏として、女性にモバイルSuicaを設定してあげるのもアリで(笑) 恋愛の入り口で「PCの設定をしてあげる」はけっこう口実になるらしいですし、いいのでは?

吉岡 「彼女といっしょにモバイルSuicaを使おうキャンペーン」ですか(笑)。JRは、彼氏彼女で使ったら1人タダにしてあげるといいんじゃないですかね。

神尾 それいいじゃないですか。ペアリング登録すると特典ポイントがもらえるとか。

吉岡 私、あの新幹線割引には、ちょっと引っかかっていたんですよ。

神尾 どこがですか?

吉岡 JR東日本の新幹線って、東海道新幹線に比べてビジネス客が少ないと思うんですよね。出張だったら新幹線に1人で乗ることが多いかもしれないけど、例えば軽井沢に行くとか、新潟でスキーとか、東北で温泉とかいう人がどれくらい1人で乗るだろう? と。せっかくケータイから席が取れて割引もあるのに、1人分だけしか取れないんじゃ意味がないと思いませんか?

神尾 確かに、チケットと違ってケータイは「1人1台」の問題はありますね。

吉岡 2人以上で旅行に行くのに、1人だけしか席を取れないというのは、ちょっとね……。

神尾 それはたぶん、ANAの「SKIP」(参照記事)も同じなんだろうなあ。まあ、あっちはQRコードやANAカードを使うという手がありますけど。

吉岡 だから、さっきの「彼氏彼女キャンペーン」なんですよ。2人でモバイルSuicaを持っていたら、2人で席を取れますからね。

神尾 その「彼氏彼女でモバイルSuica キャンペーン」は企画としてイケますよ。編集長、JR東日本に売り込みましょう! ソフトバンクモバイルの「ホワイトプラン」でも、お友達紹介は好評らしいですし。

吉岡 じゃあ、今度、取材のときに提案してみましょうか……すみません、脱線しすぎました。

●PASMO販売停止の原因は?

吉岡 鉄道系ではPASMOの販売停止も大きなトピックでした(参照記事)。あれだけ読み違えるってすごいことですよね。それだけ大きなブームだったということだと思いますが。3月に相互利用が始まるまで、PASMOで何ができるのかという細かい説明がほとんどないままに、「PASMOっていうものが出るらしい、便利になるらしい」という期待値だけであれだけ盛り上がったわけで、今振り返ると驚きです。それに、「Suicaを持っていたらPASMOは要らないんだよ」ということも周知してなかった。私鉄各社は「Suicaを持っている人はPASMOを買わないだろう」と予想した結果、用意した枚数では全然足りなくなりました。

神尾 もちろん、相互利用化の理解がユーザーに広がっていなかったことも足りなくなった理由ですが、SuicaからPASMOへの“買い換え需要”も読み違えていたのかなと思いますよ。私鉄各社のクレジットカード紐付けで、既存の“Suicaエリアに住んでいないSuicaユーザー”がPASMOに買い換えることを予想しきれていなかった。

吉岡 思ったより“買い増し”も“買い替え”も多かった、だからふたを開けたら全然足りなかった、という話だったわけですよね。

神尾 生活圏は私鉄・地下鉄エリアだけど、「たまに必要だからSuicaを持っていた」という人が多かったわけですよ。そんな彼らが一斉にPASMOに買い換えることが想定されていなかったのではないでしょうか。

吉岡 ちなみに、磁気定期券からPASMO定期券への移行数は、それほど予想とかけ離れていなかったそうです。

神尾 どちらかというと、PASMO開始前にドタバタと動き出した“クレジットカード連携”の特典や加入キャンペーンで動いた層の多さが、本当の原因でしょうねえ。

吉岡 “私鉄・地下鉄エリアに住んでいる人のニーズ”と“Suicaに加えて買い増すニーズ”が予想外に多かったというところじゃないかと思います。それにしても、今年は東京以外でもFeliCaの乗車券を導入するところが増えましたよね。

神尾 2007年はIC乗車券の発表ラッシュでした。実際に始まるのは来年以降のものもありますけど、これでほぼ全国に広がったのかなと
(2007.12.29/Business Media 誠)
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by fbitnews2006-6 | 2007-12-30 19:48 | 周辺機器  

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