聞かせてもらおうか、「913SH G TYPE-CHAR」のこだわりとやらを
ソフトバンクオンラインショップでは特典付きの5000台が3日で完売したという、業界騒然、話題沸騰の“シャア専用ケータイ”は、どのようにして生まれたのか。2人の“ガンダムファン”が、ソフトバンクモバイルの企画担当者にその熱い思いを聞いた。
前例のない巨大なザクヘッド型充電台や、細部までこだわり抜いたデザインでガンダムファンの目を釘付けにした「913SH G TYPE-CHAR」。ファンなら誰もがうらやむこと請け合いのこの端末だが、たとえ夢描いたとしても、そう簡単に実現できるものではない。事実、ここまで作り込んだ端末は、今まで誰も見たことがなかったはずだ。
では、一体このケータイはどのようにして生まれたのか。ケータイジャーナリスト界の隠れガンダムファンとして知られる筆者こと石野純也と神尾寿氏が、913SH G TYPE-CHARの企画に携わったソフトバンクモバイルのプロダクト・サービス本部 プロダクト統括部 プロダクト企画部 課長の横田知氏と課長代理の大道伸氏、マーケティング本部 プロダクト・マーケティング部 プロダクト企画2課の吉田真佑氏、プロダクト・マーケティング部 プロダクト戦略課 課長の由本昌也氏にその開発秘話を聞いた。
●ケータイの企画とは常に二手三手先を読んで行うものだ
石野純也(以下石野) まず初めに、開発に至った経緯を教えてください。普通の発想だと、なかなかここまでのものはできないと思うのですが……。
大道伸氏(以下敬称略) 実は数年前にも創通さんとはお話ししたことがありました。ただ、いろいろな事情があり、そのときは実現にいたりませんでした。そのつながりで、ちょうど去年の今頃に、たまたま創通さんからお話があったのが、今回の製品が実現したきっかけです。
僕もガンダムが好きだったので、まずは自分が面白いものを考えていこう、と決めました。それでも、やはりビジネスとのバランスをどの辺りで取っていくか、という部分は悩みましたね。あまりやりすぎると、外で使うのがためらわれますから。端末本体は外で使っても恥ずかしくなく、分かる人にだけ分かるという“本物感”を目指しました。
石野 ノーマルの「913SH」があって、シャア専用があるというのがいいですね。913SHのカラーバリエーションにはレッドがないですし。
神尾寿(以下神尾) 私も、913SHのポテンシャルはこの形の方が発揮できていると思います。
大道 それは別に狙っていた訳ではないです(笑) むしろ今気が付きました。913SHは、企画を進めていく中で一番近未来的な端末だった、という理由でベースモデルに選んでいます。
石野 なぜ充電台がザクの頭になったのでしょうか。
大道 プラスαで面白いアイデアを考えましたが、シャアといえばやっぱりシャアザクかなと。端末を入れるとモノアイになるという仕掛けを用意すれば、充電自体も楽しくなると思いました。913SHだったら、閉じると全面がディスプレイになるので、ザクのモノアイにもしやすいですしね。シャア専用、充電台、913SHの3本柱で、社長の孫にプレゼンをすることになりました。
神尾 孫社長の反応はどうでしたか?
大道 率直に「お前はアホか」といわれました(笑) そんなにいきいきと話しているヤツはみたことがない、という意味でですけどね。最終的に、「オレにはよく分からないから、やってみろ」という形で承認を得ています。
そうやって色々と進めていくなかで、「なんだこのデカさは」とも言われました(笑)。端末をキチンと収めて、モノアイのサイズから割り戻すと、充電台の大きさは12分の1というスケールが出てきたんです。ちょうど12分の1という数字はガンダムが好きな人にとっても親近感のあるもので、偶然ですが、「HYPER HYBRID MODEL」と一致します。
インパクトを出す上で、小さなザクの頭では面白くありません。ワクワク感などを演出するのにちょうどいいということで「これしかない」と決まりました。もちろん、家に置けるのか、という点なども十分考えましたけどね。
●型番の違いがこだわりの決定的差ではないことを教えてやる!
神尾 2006年の段階で創通さんから話が来たときは「シャアザクをやりませんか」という形だったんですか?
大道 いえ、「ガンダムで何か」というお話でした。
石野 なぜシャアだったんですか? 愚問かもしれませんが……。
大道 個性があって、世界観があって、ファンもいて。分かりやすいし、モノにしやすいし、考えやすいし、しかも好きだし(笑)
神尾 やっぱり連邦よりジオンなんですか? ソフトバンクがジオニズムなのかなと。で、他キャリアは“重力に魂を縛られたオールドタイプ”と(笑)
由本昌也氏(以下敬称略) それはよく言われます。
大道 あまり好き嫌いはないですけどね。「ギレンの野望」(編注:ジオン軍視点のシミュレーションゲーム)をやる時は必ず連邦から始めますし(笑)
神尾 オレは連邦派だからガンダムじゃなきゃ嫌だ、という人はいませんでしたか?
石野 一歩引いて考えると、ガンダムケータイはやっぱりガンダムじゃないかなぁ、という気もするのですが。
大道 でも、それこそ連邦ケータイを作りませんかといわれたらちょっと考えたかもしれません。言い方は悪くなってしまいますが、カラーリングや、バックグラウンドのストーリーを考えると、“大人の道具”というところとマッチするのかどうか、少々疑問です。
横田知氏(以下敬称略) 最初の(シャアに絞っていない)段階では周りの受けもあまりよくなくて、今のシャア専用ケータイのデザインを出したときに、「あ、これかっこいいよね」と、周りの反応も変わっていきました。
大道 シャアという人が持っているケータイはどういうものだろう、ということを想像するところからスタートしています。軍人なんだから、当然軍から支給されるだろう、とか(笑) 「ジオン軍のマーク」だったり、「ジオニック社製」だったり、カメラを作っているのが「グラモニカ社」だったりと、細かい部分まで色々と考えています。グラモニカを知っているのは相当マニアですけどね(笑)
石野 モノアイを作っている会社ですね。ちなみにチップは……
神尾 アナハイム・エレクトロニクスですか(笑)
大道 そのようにいろいろと劇中の設定を考えつつアイデアを膨らませて、デザインなどを作り込んでいきました。
石野 ソフトバンクとジオニックのロゴが並んでいるのは、「宇宙世紀まで生き残る会社はうちだけだ」という意気込みですか?
大道 いえいえ。単なるシャレです(笑)
吉田真祐氏(以下敬称略) 面白いじゃないですか。ソフトバンク、ジオニック、グラモニカという並びが。ありえないだろ、という感じで。
横田 今回は電源を入れたときのオープンニングやシャットダウンの際に出る「SoftBank」のロゴも外していますし、NetFront Browserを提供しているアクセスのロゴも出ないようになっています。
神尾 細かな部分ですが、権利的には交渉が大変ですよね。
横田 そうですね。実は913SH G TYPE-CHARにはバッテリーカバーが2枚入っています。FeliCaチップが入っている端末には、絶対にFeliCaのロゴマークを付ける必要があるので、FeliCaロゴのないバッテリーカバーだけを付けて出すことはNGなんです。そこで、あくまでサンプルという形でFeliCaロゴなしでジオン軍のマークを入れたバッテリーカバを添付していまして……
神尾 出荷時にはFeliCaマークのカバーを本体に装着しておいて、取り替えるならご自由に、ということですね。そこまでやるなら、SIMカードもシャア専用にしてほしかったです。
石野 赤いSIMカードって、ボーダフォンじゃないですか(笑)
大道 シャアの赤はあそこまで真っ赤ではないですね。ただ、実際シャアのパーソナルカラーである“赤”に明確な規定があるわけではないので、色にも相当こだわりました。ピンクに振るとどうしてもおもちゃっぽくなってしまいます。端末はメタリックな色にして、大人っぽさを出せたかなと思います。
横田 静電パッドの部分もノーマルの913SHとは違うんですよ。
神尾 お~。ジオン軍のロゴになっているんですね。こだわりましたね。
石野 これは、金型から変えないといけないのではないでしょうか。
大道 そうですね。変えています。
石野 ダイヤルキーの書体もオリジナルですか。
大道 はい。ノーマルの913SHとは別のものです。ちょうど70年代後半~80年代のゲームに使われているようなフォントを使っています。発表会では「宇宙世紀をイメージした」と紹介しました。
神尾 913SHがベースですが、外観はかなり変わっていますね。ここまでデザインを変えてしまうと、ゼロから作るほどではないですが、相当お金がかかっていますね。
石野 普通に考えると、メーカー名が“架空のメーカー”というのもすごいことですよ。
横田 一応、箱には小さくシャープさんの社名も入っていますが……
神尾 きっとシャープは「将来的にモビルスーツまで作る」という野望があるんですよ(笑)
大道 言葉が悪いかもしれませんが、このケータイは、シャレのかたまりなんです。もちろん、現実にクリアしなければいけない課題はありましたが、作り手としても楽しみながら考えていけました。
●“好き”を“仕事”に変えて、立てよソフトバンク社員!
石野 先ほど孫社長の承認を得たとおっしゃいましたが、やりたい放題やったような感じですか。
由本 孫が承認したからといって、特別なサポートがあったわけではないので、そこから先は社内の各部門を1つ1つ説得していきました。そこは、普通の商品と一緒です。ただ、会議にかけると、必ず誰か1人や2人は(ガンダムが)好きな人がいて、“参謀”になってくれました。
神尾 それはもう“同志”ですね(笑)
由本 開発の会議でもありましたし、調達の会議でもありましたし、営業の会議でも同じでした。
横田 我々は企画の側ですから、それこそ自由にやれたのですが、その後由本たちが社内調整をがんばってくれました。
神尾 社内調整の方が大変そうですよね。調達数やら、流通やら……。
横田 個装箱の容積も、普通の端末の約8.7個分になるので、仮に1万台置くとしたら9万台分のスペースが必要になってしまいます。
由本 物流にもかなり怒られました。“(倉庫の)キャパを知っているのか”と。とは言え、近い年代の方が責任者だったりするので、大目に見ようというところもありました(笑)
神尾 そういう意味では、こういうものをやるときは、同志が多い方が強いですね。ガンダムファンであることを隠している人も結構多そうですし。
横田 会議でツッコミが入っても助けてくれる人が必ずいました。(ガンダムを)知らない人が「目が1つしかないじゃないか」と言ったら、「そういうものなんです」というフォローが入ったりもしました(笑)
大道 社内もそうですが、シャープさんにも、本当に頑張っていただけました。それはバンダイさんも同じです。ザクヘッドの充電台も、クオリティは相当高いですよ。ワンセグケータイですから、頭を開けて使うことも想定されます。ですから、裏側の部分までしっかり作り込んでいます。
充電台は一体型にするという案もありましたが、無理をいって組立式にしてもらいました。“ガンプラ”を作っていたころを思い出して、ワクワクしながら組み立ててもらいたいですね。
横田 コンテンツもすごく大変だったと思います。たとえばアイコンなどは、細かい部分まで見ていくと、全体で6000~7000個あるんですよ。そういうところを1つ1つ洗い出していって、必要なものはすべてデザインを変えていきました。
神尾 値段もインパクトが大きいですよね。
由本 本当はそこまで高くないですよ。10万円と言われると高く感じますが、普通の端末も一括で買うと7万円ぐらいはしますからね。
石野 現在ソフトバンクオンラインショップで受け付けている先行予約では、普通の端末と比べて割賦払いより一括払いが多いとか、そういう兆候はありますか。
由本 まだ予約段階ですし、そこまでのデータは取っていません。ただ、女性のお客様も結構いました。
石野・神尾 え~(笑)
大道 実は、社内でもわりと秘密で作っていたのですが、今になって女性が「私もガンダム好きです」と言い出してきたり。
神尾 ガンダムは隠れファンがいっぱいいますからね。
由本 特典付きの先行予約(5000台)も3日で終わりました。
神尾 それはすごいですね。その数字は成功といっていいのではないでしょうか。
由本 大成功ですね。むしろ、大成功過ぎて、いろいろなお店から問い合わせが殺到しているという状況です。ちょっと読みが甘かった部分もありました。実は盛り上がりはもう少し後になると思っていたので、販促ツールなどの仕込みはこれからなんです。
●新しい時代を作るのは社員だけではない!
神尾 最初にシャア専用ケータイという成功例が出たので、後に続きやすくなりましたね。やっぱりドムがよかったとか、ゲルググがよかったとか、そういった意見はありませんでしたか?
大道 僕は個人的にはシャア専用ズゴッグがよかったのですが(笑) ただ、そういうのは、それこそ個人の趣味になってしまうので……。なんでグフじゃないんだとか。
石野 じゃあ、僕は「Zガンダム」と「0080」が好きなので、まずは百式ケータイがほしいです。金メッキでコストがすごくかかってしまいそうですが(笑)
神尾 私は「0083」も好きですね。個人的には地味なガンダムシリーズが好きでして。幻の「デンドロビウム」がほしいなあ。オーキスが充電台、本体がステイメンということで。
横田 「0080」や「0083」にはニュータイプも出てきませんからね。
石野 ジオニックの次は、アナハイム・エレクトロニクスとかどうですかね。
横田 じゃあ、次はリック・ディアスでもいきますか(笑)
神尾 913SH G TYPE-CHARを買って、充電台を量産型にする人もいそうですね。
大道 量産型に改造するのは結構難しいですよ。角の部分に穴があいているので、パテで埋めなければいけなかったりしますし……。
石野 多分、パテ埋めぐらいだったらすぐにやってしまいそう(笑)
神尾 個人的には、次回作があるとしたら、シャア専用は3倍の速度で動いてほしいですね。ネットワークゲームが3倍の速度で動くとか。HSDPA端末では「高速オンラインゲーム」をすでに発表されていますが。
横田 そういう意味では、次を考えるのも難しいですね。
大道 また同じことはしたくないですからね。次を企画するにしても、やはり驚きはほしいですし。
神尾 人気投票をやったらいいんじゃないですか。次期モデルで作ってほしいモビルスーツをユーザーから募るんです。
由本 それはいいですね。シャア専用ケータイは秘密裏に開発していましたが、もう世の中に出たものですからね。
石野 キャラケーというシリーズがある以上、ガンダムにこだわる必要もないですよね。新世紀エヴァンゲリオンとかでもいいんじゃないですか。ちょうど映画版も「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」が2008年公開予定ですし。あくまでも個人的な要望ですが(笑)
神尾 最近のケータイはどんどん柔らかいデザインになっているので、あえてSFとかミリタリーなどの、わりと固めなイメージのものもほしいですね。私の個人的な要望としては「攻殻機動隊」をイメージしたケータイがほしい。ソフトバンクモバイル同士の通話は、わざと音をくぐもらして(電脳同士の直接交信を演出した)電通モードになるとか。骨伝導スピーカーと肉伝導マイクを使って、“音を出さずに会話できる”ケータイにしたら雰囲気も抜群です(笑)
大道 そう考えていくと、色々なバリエーションがあると思います。意見をどんどんいただけると嬉しいですね。それは、我々の宝になりますから。
石野・神尾 では、ぜひITmediaでアンケートをやりましょう!
(2007.11.28/+D Mobile)
by fbitnews2006-6 | 2007-11-28 18:57 | 周辺機器