その時代に最適なポインティングデバイスを――「W53S」の「+JOG」誕生の秘密




 一部のソニエリユーザーから、熱烈な支持を集めているジョグダイヤル。+JOGを搭載したauの「W53S」は、そんなジョグダイヤル派のユーザーにとってまさに“待望”の1台だ。これまでのジョグとの違いや、W53Sならではの機能を中心に開発陣に話を聞いた。

 auの2007年夏モデルとして発表され、10月に店頭に並んだ「W53S」は、auケータイとして約2年半ぶり、WIN端末では約3年ぶりに「ジョグダイヤル」を搭載したことで大きな注目を集めた。

 ジョグダイヤルは「+JOG」(プラスジョグ)としてリニューアルされ、従来のジョグとして操作できるのはもちろん、ジョグ周辺に十字キーが割り当てられたことから、利用シーンに応じてジョグと十字キーを使い分けられるようになった。

 ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ製端末の遺伝子を受け継いだのはジョグだけではなく、背面のパネルを着せ替えられる「Style-Upパネル」にも対応。2.7インチのフルワイド(解像度240×432ピクセル)液晶、au Music Player、オートフォーカス対応の201万画素カメラを搭載し、おサイフケータイやEZケータイアレンジに対応するなど、ソニエリ端末ならではの機能と昨今のケータイに求められる基本的なスペックをしっかり押さえた端末に仕上がった。

 auの現行機種ではスタンダードモデルに位置づけられるW53Sは、どのようなコンセプトのもとで開発が進められてきたのだろうか。開発陣に話を聞いた。

●ジョグ復活、3年以上かかった理由とは

 企画担当の冨岡氏によると、W53Sには2つの大きなコンセプトがあるという。1つは「使い勝手のよさ」。これを実現するために生まれたのが、新しいポインティングデバイスの「+JOG」だ。もう1つが「カスタマイズ」。100種類のStyle-UpパネルやEZケータイアレンジなどにより、外側も内側も自分好みにカスタマイズできるよう、さまざまな工夫を凝らした。

 2つのコンセプトが対等に存在するとはいえ、最も気になるのはやはり「+JOG」だろう。ジョグダイヤル搭載機種は、2005年6月に発売した「A1404SII」以来、W53Sが登場するまで発売されておらず、WIN端末に至っては、「W21S」が発売された2004年7月までさかのぼる。そしてこのW21Sのリリース以降、WIN端末では実に3年もの間、ジョグの搭載が見送られることになる。

 “ジョグ非搭載”を決断する契機となったのが「ゲーム」だ。W21Sの発売当時、EZアプリ(BREW)が大容量化し、「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」などの本格的なゲームがauケータイに移植され始めた。筆者も経験があるが、RPGで自分のパーティがフィールドを移動する際には、常にジョグを回し続けなければならず、十字キーに比べて指の負担が増す。冨岡氏も、「その時期で最適なポインティングデバイスは十字キーだろうと判断し、W31Sからは十字キーを搭載した」と振り返る。

 とはいえ、ジョグが復活するまで、なぜこれだけの年月がかかったのだろうか。冨岡氏は、「開発が大変だったということではなく、その時期では十字キーが最適と判断したので、いわば商品戦略的な措置です」と話す。「“ジョグが悪いからやらない”というのではなく、“最適なポインティングデバイスは何か”という検討は水面下で進めていました。今回、十字キーとジョグの融合を実現できれば、お客様のニーズを満たしつつ、さらに上を行く使い勝手を実現できると考え、搭載するに至りました」(冨岡氏)

 もちろん、+JOGは一朝一夕に完成したわけではない。デバイス開発(+JOG)担当の井澤氏は、「ジョグと十字キーの“親和性”と“差別化”の両立が+JOGのキーワードだった」と話す。「ジョグ+十字キー」は、開発チームが従来から温めていたコンセプトであり、「(十字キーを搭載した)ほかのソニー・エリクソンの端末を触りながら、『じゃあ真ん中を回してみるか』と思いついたのが(+JOG開発の)発端だった」(井澤氏)という。

 しかしいざ開発がスタートすると、「ジョグを十字キーの間に収めるのが大変だった」と井澤氏。W31S以降、ジョグから十字キーにシフトしたのは、操作性のほかにも、「ジョグを搭載すると端末が厚くなる」ことが大きな理由だったという。「あれだけ直径が大きいものを入れると相当な体積を占めてしまいます。今回、ジョグ部分をサイズダウンしつつ、従来のジョグを上回る使い勝手を実現できるかが課題でした」(井澤氏)

 +JOGは従来のジョグと構造が大きく異なるのも特徴だ。「+JOGでは金属接点を使わずに、鉄アレイのような形の回転磁石を使った構造で、N極とS極の動きで回転を識別します。従来の板バネだと、使うほどに耐久性が下がりますが、回転磁石だとオン/オフ動作の耐久性は無限大です」(井澤氏)。もちろん、ボタンのプッシュなど通常のテストも行い、品質と耐久性については十分な検査がなされている。

●「+JOG」になってジョグのユーザービリティも向上

 +JOGは、ジョグ+十字キーという機構が従来のジョグとの最大の違いだが、ジョグの使い勝手が高められている点も見逃せない。W53Sでは「ジョグ設定」という項目が設けられており、ジョグの操作性を自分好みにカスタマイズできる。

 その1つが、ジョグダイヤルを使ったカーソル移動とスクロールの速度を変更できる「回転操作」設定だ。「アクセル1」「アクセル2」「アクセル3」の3パターンを用意し、ジョグを回すと少ない力でスクロールできるよう加速するのが特徴だ(アクセル3が最速)。「何百人という一般の人を調査して、いろいろな操作パターンがあることを発見しました。こうした調査を経て、大まかな3パターンを用意しました」と、ソフト開発(+JOG)担当の向井氏は話す。

 この3つのアクセル設定には、「+JOGでスクロールしたいのか、項目を確実に選択したいのかをソフト側で見分けるような工夫を入れている」(向井氏)という。ジョグのスクロール速度が遅いと何度も指を動かすことになり、指の負担が増してしまう。最小限の操作でスクロールできるアクセル設定を採用したのは、ジョグを回すときの「指を戻すしんどさ」を軽減してあげたいと考えたことがきっかけだったという。

 最近はつめの長い女性でも操作しやすいキーを採用する機種が多いが、向井氏は「そういう方にこそアクセルを使ってほしい」と話す。さらにジョグの周辺には、すり鉢状に傾斜がつけられており、つめの長い人でもキーを回しやすいよう物理的な配慮がなされている。ジョグの操作感については、「社内の調査では製品版よりも(操作感が)少し硬いものも使ってもらったが、実際は真ん中よりも少し硬いくらいの操作感を実現している」(井澤氏)という。

 なお、ジョグのスクロール速度について、「PCサイトビューアーはやや特例にした」と向井氏。PCサイトビューアーは大きなコンテンツを表示することが多いので、ジョグを回し続けると、リンクを選ばずに高速でスクロールできるようになる。ただしこの高速スクロールはEZwebサイトでは適用されない。ちなみに、W53SのPCサイトビューアーは横画面表示にも対応しており、その場合、ジョグを回すと左右にスクロールする。

 一方で、ジョグの操作を完全にオフにすることもできる。この点について、「(誤操作をしないよう)ゲームを集中してやりたいときに、一時的にオフにして使い分けができるようにしました」とソフト開発(UI)担当の斉藤氏は話す。「自分の中でジョグを使うパターンと十字キーを使うパターンを習得してもらえれば、新しい使い方を見つけてもらえるのではと思います」(斉藤氏)

 ただし、“アプリを使うときはジョグをオフに、メールやEZwebを使うときはジョグをオンに”という具合に、機能ごとにジョグをオン/オフには設定できない。基本的にジョグはどの機能においても使用できる状態となる。

 もう1つ、ジョグ設定の新機能として、待受状態でジョグを回すと、あらかじめ設定した機能を呼び出せるショートカットを利用できるようになった。「過去のジョグ搭載機ではアドレス帳の呼び出しが固定でアサインされていますが、ほかの機能を呼び出したい人もいると考え、採用しました。主に使う機能と、スクロール操作などジョグのメリットを生かせる機能を登録できます」(斉藤氏)

 ジョグの操作は上下キーを動かす操作と同一なので、カメラのズームや音楽の音量調節にも使える。ただし、1点だけイレギュラーなケースがある。それは、文字入力の候補選択時だ。文字入力画面で候補が表示されると、従来は左から右へカーソルが移動するタイプのみだったが、W53Sは左右移動に加え、上下にカーソルが移動するタイプに変更できるようになった。「文字入力操作はユーザーにとって、『こう動くべき』というルールがありますし、新しいユーザーさんにも違和感なく使っていただきたいので、候補選択は2つの設定を用意しました」(斉藤氏)

 今後のモデルにもジョグが搭載されるのかが気になるところだが、「その時代のアプリケーション、サービス、使い方に最適なポインティングデバイスはどんな形かという追求はこれからも続けていきます。同じ使い勝手が求められるのであればこの形になるかもしれないし、違うニーズが出たら、違うデバイスを提案していくかもしれない」(冨岡氏)と、ジョグが継続されるかは検討中、という姿勢だ。

 ユーザーからは「ジョグをもっとカスタマイズしたい、もう少しジョグの幅を大きくしてほしい、回転ごとに鳴るカチカチ音を復活させてほしい」などの声も挙がっているようだ。今度は、さらにファンをうならせるジョグの登場に期待したい。

 余談だが、「+JOG」の「+」は当然「プラス」の意味を持つが、もう1つ、「十字キーの“十”の意味も持つ」とこのことだ。

●素材感にこだわったインハウスデザインのStyle-Upパネル

 W53Sのもう1つのコンセプト「カスタマイズ」については、Style-Upパネルを100種類ラインアップしていることから、ソニエリが+JOG並みに注力していることがうかがえる。Style-Upパネルは、ソニー・エリクソンのインハウスデザインによるものが50種類、ディズニー、Tokyo Collection、World Creatorsなど外部クリエーターとコラボレートしたものが50種類用意されている。

 本体とStyle-Upパネルのデザインを担当したデザイナーの兼田氏は、「コラボレートしたパネルは印刷したものが多いので、ソニー・エリクソンのパネルは素材感にこだわり、中でしかできない表現にこだわった」とパネルのコンセプトを話す。革、ラメのような素材や、ラインストーンやエンボスを施したもの、2枚重ねで奥行きを出したものなど、多彩なパネルがそろう。「革にエンボスをつけたのは初めて」(兼田氏)とのことで、芸術作品のようなパネルが目立つ。

 パネルのデザイン自体は何度か経験があったので、あまり苦労はなかったそうだが、これだけの数のパネルを短期間で作っていくことが大変だったという。「当初は100種類ほど集め、柄がかぶらないようにかなりアイデアを出しました。デザインは本体よりもパネルのほうが時間がかかりましたね」(兼田氏)

 このStyle-Upパネルと連動した待受画面も用意しており、Style-Upパネル購入者はパッケージ裏のQRコードから専用サイトにアクセスしてダウンロードできる。また、W53S購入者全員が無料でダウンロードできる「EZケータイアレンジ」も、メーカーサイト「SonyEricsson@ez」で配信されている。

 W53Sでは中身のカスタマイズにもこだわり、EZケータイアレンジの素材を6種類プリセットしている。「着せ替える楽しさを知ってもらおうと思い、これまでプリセットコンテンツは2、3種類しかなかったのですが、今回は数を増やしました」と斉藤氏。「EZケータイアレンジは、バリエーションを増やしていろいろな方向に散らすのが効果があります。シュールなネタ、こてこてのキュートなもの、デザイン性のあるものなど、バリエーションを重視しました」(冨岡氏)

 このほかに、サブディスプレイをカスタマイズできる“遊び”の要素も追加された。EZケータイアレンジと連動しているわけではないが、本体を閉じたときに表示されるグラフィックを10種類内蔵している。「有機ELというデバイスを入れるにあたって、何か面白いことをできたらと思い、採用しました。アニメーションはメーカーサイトからダウンロードすることもできます」(向井氏)

 全体のデザインは「親しみやすさ」と「使い勝手のよさ」がコンセプト。「見た目も全体に柔らかく、丸くて角のない握りやすいフォルムを実現させました。本体を開ける際に、サイドに溝があるので指がかかりやすくなっています」と兼田氏。ダイヤルキーにはW51Sでも好評だったタイル状のキーを採用しており、指の腹にぴったり当たるので、つめが長い女性でも快適に操作できるだろう。

●カスタムメニュー、デコ絵つくーる、モバイル辞書――新機能も充実

 「カスタマイズ」がW53Sのキーワードということもあり、通常のメインメニューのほかに、12の項目を登録できる「カスタムメニュー」も用意した。ソニー・エリクソンの端末には従来から「マイセレクト」というショートカットがあるが、「マイセレクトはあまり使わないけど時々設定を変えたくなるショートカットを集めたもの。カスタムメニューは自分好みのメインメニュー」(斉藤氏)だという。「KDDIからのリサーチの結果をもらい、よく使われている機能を選びました」(斉藤氏)

 「ジョグのメリットはメールが使いやすくなることが大きい」(斉藤氏)ため、従来機種では数10個だったデコメールテンプレートを150種類プリセットした。パネルと連動した素材はないが、新規で作ったテンプレートは100種類にものぼるという。「本当はもっとたくさん作ったのですが、その中から選りすぐりました」(斉藤氏)

 撮影した写真、文字、イラストなどを切り出してオリジナルの絵文字を作成し、デコレーションメールの文中に挿入できる「デコ絵つくーる」も搭載された。この機能を利用できるのは、現行機種ではW53Sだけだ。「新しいメールの楽しみ方を提案できればと考え、搭載しました。顔写真を使ってもいいですし、地図やサインなども簡単に作れますよ。ユーザーさんから要望があれば、もっと力を入れていこうと思います」(冨岡氏)

 ツールは「モバイル辞書」が追加された。使用しているのは旺文社の辞書で、国語辞典、英和辞典、和英辞典の3つの辞書を利用できる。さらに、オンライン辞書も用意されている。「モバイル辞書は日常的に使うものですが、オンライン辞書は、日々更新している新語でも検索できる辞書なので、より詳しく、新しいものを調べたいときに使っていただければと思います」(斉藤氏)

 一方で、EZ・FMやATRACファイルの再生機能は、W53Sには搭載されていない(ただしスピーカーはステレオを採用)。これについては、「W53SはAV機能を狙った端末やなんでも入っている端末と違い、ポイントを絞って機能を選んだ」(冨岡氏)ためだという。

 W53Sに続く端末は、今後どうなっていくのだろうか。この点を考えるには、2007年から2008年にかけて変わりつつある、ケータイ業界の大きな流れをとらえる必要がある。まず、総務省指導による料金体系の見直しにより、端末を長期間使うニーズが増えていること。「これに対応するためにメーカーができることは、着せ替えや中身のカスタマイズなどで、ユーザーが長く使っていけるようにすることです」(冨岡氏)

 もう1つが、端末プラットフォームの共通化。共通プラットフォームは端末の開発期間を短縮するなどのメリットがある一方で、メーカー間の差別化が難しくなっているのも事実で「ポインティングデバイスに注力して開発していくことで、ソニエリらしさを感じてもらえれば」というのが狙いだ。

 「『(内外の)カスタマイズ』と『(独自の)ポインティングデバイス』を兼ね備えたW53Sは、スタンダードモデルながら差別化に成功した象徴的なモデルとして提案できた」と、冨岡氏は胸を張る。音楽やAV機能への特化は、たしかに差別化手法としては分かりやすいが、スタンダードモデルとして他機種との違いを明確に打ち出せたW53Sこそ、これからの時代に広く求められる携帯の1つの形なのかもしれない
(2007.11.10/+D Mobile )
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by fbitnews2006-6 | 2007-11-11 16:43 | 周辺機器  

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