ポストセカンドライフの本命か・40秒でゲームが作れる「メタプレース」

 先週開催された東京ゲームショウや以前にも紹介した「JAPAN国際コンテンツフェスティバル(コ・フェスタ)」などゲーム関連の展示会・講演が目白押しだ。それらに参加していて見えてきたのは、ゲームのサービス化の流れがますます顕著になってきたことだろう。高騰するゲーム開発費についても何度も当コラムで書いているが、この問題とサービス化への道筋を解決する期待のシステムが登場したので紹介したい。

■北米ゲーム産業の論客が語る大規模開発の限界


 24日に行われた「CEDEC/コ・フェスタゲーム開発者セミナー」の講演では、米国のゲーム開発分野の重鎮が次々と登場した。

 マーク・デローラ氏は優秀な開発者でかつ論客として知られており、任天堂やソニー・コンピュータエンタテインメント・アメリカ(SCEA)、UBIソフトといった企業での経験がある。最近コンサルタントとして起業しており、北米でも尊敬されているプログラマーの一人だ。

 ロビン・ハニキ氏はシカゴ大学時代にゲームデザインの分析と方法論を発表し、現在はエレクトロニックアーツ(EA)で「Wii」向け「ぼくとシムの町」の開発チームに在籍している。


 そして、「ウルティマオンライン」の開発経験を持ち、ソニー・オンラインエンタテインメントでクリエティブディレクターを務めたことのあるラフ・コスター氏だ。

 彼らの講演内容は、私自身かなり驚かされるものだった。3人が期せずして、100人の開発体制を抱えるのが当たり前になりつつある現在の大規模開発の限界について議論を展開した。開発をもっと小規模にし、一般のユーザーまで巻き込むようなタイトルの開発の重要性と可能性の大きさについて主張したのである。

 デローラ氏は、「ゲーム開発の民主化」という題で、単なるユーザーであった人も様々なツールの選択肢が揃ってきたことによってゲーム開発に参加できるようになり、ゲームが誰にでも開発可能なものに広がりつつあると指摘した。ハニキ氏は現在の大規模ゲームの開発状況をボリュームが過剰なまでに膨らみ、こってりとした味ですぐにお腹いっぱいになってしまう「チョコレートケーキ」に例えた。


 最も力が入っていたのはコスター氏の講演「新しいゲームのランドスケープ」である。冒頭から、「これまで大企業で過ごしてきたが、これらの企業に将来があるとは思えない」という爆弾発言が飛び出し、ひたすら大規模化を進めてきた今のゲーム産業を指して、「世界の地図はすべて間違っていた」と言い切った。その原因として、開発者自身もゲーマーであり、今の大規模化したゲーム開発に過剰適応していることを挙げ、その間違いに気がつかず指摘されても反発を感じるだけと厳しく指摘した。

 ゲーム開発のために必要なコンテンツ量はブルーレイ・ディスク(BD)の登場により、コンシューマー機市場が形成された1980年代当時に比べ40―150倍にもなっている。開発コストも22倍にまで膨らんでいる。そしてコスター氏は冗談交じりに、「プレイステーション4」の時代がやってくれば記憶媒体がさらに巨大化し、もう開発が不可能なほどの予算規模になるだろうと警鐘を鳴らした。

 コスター氏はこれらの問題を解決させる取り組みを進めている。それについては後段で紹介しよう。



■「セカンドライフ」だけが未来形ではない

 インターネットに接続した環境は、非常に多様なサービスモデルを展開できる可能性を秘め、未発見の方法論が多数存在することは間違いない。今年、日本で大きく注目されている3次元オンラインコミュニティーの「セカンドライフ」はその典型例の一つといえるが、この方向性だけが将来の発展の選択肢であるかのような理解は、完全に間違っていると感じていた。

 今のセカンドライフブームは新しいメディアが登場するときに必ずといっていいほど起きる現象とも言える。メディアそのものの充実が進むよりも先に、周辺の議論の方がかまびすしくなる。過去を振り返ってみると1990年代初頭の「マルチメディア」ブームなど、同じような例はいくらでもある。

 東京ゲームショウで行われた基調講演のトークセッションのなかで、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の平井一夫社長兼グループCEOは、PS3向けに来春サービス開始予定の3次元オンラインコミュニティー「Home」について、これはゲームなのかどうかといった質問を受けた。平井氏は「インタラクティブエンターテインメントである限りゲームの範疇に入る」という自論を展開していた。

 そろそろこの手の議論は終わりでいいのではないのか。新しい形のサービスは次々と登場し、ますますハイブリッド化していくのだ。ゲームという言葉の定義や分類を懸命にする作業はますます意味がなくなっていく。

 私自身は、セカンドライフなどで提示されていない、まったく新しいサービスが様々な形で登場してくる可能性をこのコラムでも述べてきたつもりだが、その一つの可能性を具現化するものがついに姿を現した。セカンドライフとはまったく異質な要素を持ったシステムであり、今までになかったものである。

■小さなチーム・小さなゲームへの回答■小さなチーム・小さなゲームへの回答

 そのサービスは、前述のコスター氏が社長を務める米areaeが「アルファ」版のサービス開始を21日に発表した「メタプレース(Metaplace)」だ。24日の講演の中で、概要を説明した。



 コスター氏は「Web2.0」の時代が到来しゲームがサービス化したことで、旧来とはまったく違った発想で物事を変える必要性を強調する。成功しているウェブサービスは、少人数の内製チームで短時間にサービスを開発し、問題を抱えていようともリリースしてユーザーの要望を取り入れながらその都度どんどんアップデートしているという例を挙げた。

 同様に小さなチームが開発した多様なゲームが登場することで、様々なニッチ市場を開拓できる。巨大ゲームを作るために必要だった開発文書を捨てて開発することで、様々な小さなアイデアを統合できるという論理である。小さなチーム、低予算、早期のリリース、頻繁なアップデートが次のトレンドになるとコスター氏は論じた。これは現在のゲーム開発では、あまり考えられない手法だ。

 そしてその具体像をウェブブラウザー上で展開できるサービスとして設定し、現状のゲーム業界が抱える問題に対して出した彼なりの解答が、メタプレースというサービスなのだ。サービス内のサンプルゲームなどのスクリーンショットは事実上、今回の日本でのイベントが世界初のお披露目となった。



 メタプレースはブラウザー上で動くソフトであるため、ウィンドウズやマック、リナックスなどパソコンのOS環境を選ばない。原理的にはブラウザーを搭載するPS3や、「Wii」上でも動作する。

 また「Lua」というプログラミング言語を土台にした簡易なインターフェースを備え、プログラムの知識がなくともウェブサイトの記述に使うHTMLタグに近い感覚で簡単にプログラムが組める。Luaは比較的実行速度が遅い言語として知られるが、その部分を別の専用サーバーで計算を行うことで速度を向上させている。

 このシステムの最大の売りは、たった40秒で大規模オンラインゲームを誰でも開発できてしまう環境が用意されているという点だ。現状では2次元グラフィックのシステムが基本だが、ロールプレイングゲームのような環境だけでなく、同じシステムでシューティングゲームなど多様なバリエーションのゲームを開発できる。「信じられないというかもしれないが、実際にできる」とコスター氏は述べている。

■セカンドライフとの決定的な違い


 メタプレースとセカンドライフとの決定的な相違は、セカンドライフはすべてのユーザーがサーバーにアクセスして1つの世界の中で様々なことを行うのに対し、このシステムではユーザーごとに自由に別々の世界を作成し、自分で好きなようにサービス展開することができる点だ。

 課金については、将来的にこのサービス専用のバーチャル通貨を購買するような形を取り、人気の高いサービスを展開しているユーザーはその通貨で支払いを受ける。また一定のルールに基づいてドルに換金できるというリアル・マネー・トレード(RMT)の機能を一部持ったシステムになる予定だ。

 現在は、アルファ版サービスが開始されたばかりだが反響は大きく、サービス開始1週間のうちに世界中から1万人以上の申し込みがあり、ユーザーアカウントの発行を現在は制限している状態にある。

 将来は、サービス自体を様々な外部サイトに埋め込めるようにし、完全に自由にネット上で展開できるようにするという。こらがウェブ全体のスタンダードとして拡張すれば、一つの企業にビジネスモデルから技術までがすべて集約される独占的な状況を打ち破り、より多くのユーザーが開発の楽しさを手軽に味わえるようなテクニカルなブレイクスルーとなる可能性を秘めている。



 ようやく、ゲームのサービス化および多様性への一つの解答が登場した。このサービスをただのゲームだと定義するには無理があり、また仮想世界的な側面をもちながらも、それがすべてでもない。

 もちろん、まだサービス初期のアルファ版であるため、理想と現実とのギャップは存在するだろうが、久々に聞いているだけでこちらも興奮してくるようなサービスだ。新しい台風の目となる可能性を秘めている。


メタプレース
http://www.metaplace.com/
(2007.9.28/日本経済新聞)
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by fbitnews2006-6 | 2007-09-28 11:44 | インターネット総合  

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