出版業界からケータイ通販へ参入・講談社「ViVi」のブランド戦略




 最近、急激な伸びを示しつつあるケータイ向けの電子書籍市場。雑誌や書籍の売り上げ不振にあえぐ出版業界にとって、電子書籍は新たな収益源として注目される。そんななか、電子書籍とは全く違う戦略でケータイ向けコンテンツで勝負しようとしているのが、講談社の女性向けファッション誌「ViVi」だ。

 今年7月からNTTドコモ、au、ソフトバンクモバイル向けに公式サイト「ViViモバイル」の提供を始めた。通常、月刊誌のケータイ向けコンテンツといえば、掲載されている内容の一部を紹介するものがほとんどだ。しかし、ViViモバイルは、記事の紹介がメインではない。月刊誌に掲載された服や小物などを直接、読者に販売するという「通信販売」が最大のウリとなっているのだ。

 実際に、雑誌発売日にサイトを閲覧してみると、まだ雑誌が店頭に並んだばかりだというのに、誌面に掲載されているものと同じ服や小物がそのまま紹介されており、その場で購入することができる。しかも、サイトで服を紹介しているのは、読者にとってあこがれの的でもある、人気モデルたち。まさに雑誌「ViVi」の誌面をめくる感覚で、買い物を楽しむことができる。

■雑誌のブランド力を生かした通販ビジネス





 「女性向け通販サイト」は以前から数多く存在し、何ら珍しいものではない。しかし、それらの多くは女性ファッション誌が取り上げたアイテムを掲載する際、テキストだけで取り上げられたことを紹介するか、商品だけを単体で撮影した画像しか掲載できない。しかし、ViViのサイトでは、人気モデルが着こなしている画像を見ながら商品が買える。女性ファッション誌が自ら手がけるモバイルサイトだからこそ実現できる見せ方だ。

 「雑誌を売るだけが出版社のビジネスではないと思っています。雑誌のブランド力を生かしたビジネスができないかと考えた結果がeコマースでした」と、講談社デジタル事業部ブランドビジネス推進部の慶尾有紀副部長はいう。「ViVi」は、10代後半から20代前半の流行に敏感な女性をターゲットにしたファッション誌。印刷部数は46万部を誇る。「ViViの読者はファンションに興味があり、買い物が大好き。読者サービスの一環として、モノが買えるサイトを運営したかった。これから読者を取り込んでいくにはモバイルコンテンツしかないと、リニューアルすることにしました」 (講談社ViVi編集部・前田亮編集次長)。






 もともとViViでは、一般サイトとしてモバイル向けコンテンツを運営していた。しかし、本誌の記事内容を紹介するだけにとどまっているなど、必ずしも内容は充実していなかった。だが、昨年12月に雑誌のブランド力を高めてビジネスを展開していくための専門部署である「ブランドビジネス推進部」が発足。そこで、今年3月ごろから、ViViモバイル向けのサイトをリニューアルしようという計画が本格化し、7月に公式サイトとしてオープンとなった。

 講談社ではリニューアルするにあたり、公式サイト化を重視した。それは、それまで一般サイトで運営していた時の悩みを解消するためでもあった。「読者が検索エンジンでViViのサイトを探した際、一発で見つけられるようにするには公式サイト化は不可欠だったのです」(慶尾氏)。

 実際、auのGoogleで「ViVi」という言葉を入れて検索してみると、ケータイ向け一般サイトが10万件以上もヒットしてしまう。その多くが他の通販サイトなどで、ViViで掲載された商品をアピールするために「ViVi何月号で紹介されたアイテム」といったフレーズを記載しており、それが検索にかかってしまうのだ。公式サイトであれば、どの検索エンジンで調べてもかなりの確率で上位に表示されるようになる。読者をダイレクトに誘導するには一般サイトではなく、公式サイトでなければならなかった。




■ファンクラブ会員証としての機能を持つ「クレジットカード」





 読者は、まさにViViという雑誌の「ファン」である。講談社ではファン向けに情報を発信する公式サイトを用意するだけでなく、「会員証」が必要と考えた。その会員証にクレジット機能を持たせれば、利便性がさらに向上する。

 通信販売を手がけるからには、読者に商品を買ってもらい、代金を支払ってもらわなくてはならない。講談社では、三井住友カードと提携し、ViViのロゴを全面にデザインした「ViVi Card」というクレジットカードを発行することにした。入会金・年会費は無料。ViViのオリジナルグッズがもらえるだけでなく、ViViのサイトで買い物をした際、カードで支払うとポイントが通常の2倍付与される。また、「iD」にも対応するため、コンビニなどでの支払いにも便利に使える。「読者層はまさにファーストカードの世代。買い物が大好きな読者に最初のクレジットカードとして持ってもらいたい」(慶尾氏)。



 これがビジネスマン向けの雑誌や他の専門誌であれば、雑誌のクレジットカードを作っても、読者に見向きもされないことだろう。なぜなら、ほとんどの読者はすでにクレジットカードを所有しており、普段使っているクレジットカードは決まってしまっているからだ。

 しかし、ViVi読者の大半は10代後半から20代前半の女性で、クレジットカードをまだ持っていない割合が他の年代に比べ高い。愛読しているViViがクレジットカードを発行し、しかも通販サイトでの買い物はポイントが2倍になると知ったら、読者は飛びつくことだろう。ViViのブランド力と、購買意欲が高く、クレジットカード所有率が低い読者層だからこそ、実現できるビジネスモデルだ。


■「ViVi」らしさを生かすことが最大の差別化




 ViViが読者に支持されているのは、モデルたちの存在だけでなく、編集部員が目利きをし、読者が喜ぶようなファッションアイテムを選別し、誌面で最新の情報を発信し続けている点だ。「ViVi系」とも形容されるスタイルを確立し、読者からの信頼も厚い。ViViというブランドは、読者にとって憧れの存在でもあるのだ。ある会社の宣伝担当者は「広告を出す立場からも、ViViは読者層が明確で、媒体としてのパワーも感じる。出稿しやすいメディア」と語る。

 今回、サイト構築のコンサルティングを担当したシゲルの樋口由美子社長は「モバイルサイトを運営する場合、『とにかく売れればいい』という発想になりがち。しかし、ViViの場合、『いかにViViらしさを大切にするか』という視点でサイトを構築してきた」という。

 ViViにとって、ビジネスの中心は雑誌の誌面だ。編集部員が集めた情報が記事となり、毎月、一冊の「ViVi」が制作されていく。掲載されるファッションアイテムが決定すると、今度はそれらをモバイルサイトで販売するために、商品の仕入れなどを行い、急ピッチでサイト用のコンテンツが作成され、雑誌の発売日にはモバイルサイトがアップされる。読者は雑誌を読み、欲しいと思った商品をモバイルサイトで選び、「ViViCard」で購入するという流れになる。

 通販を始めたからといって、雑誌の紙面がモノを売るための構成になることはないという。あくまで、編集者の目線で集めた情報が最優先される。現在はViViからの一方的な発信だが、「今後はコミュニティなども構築して、読者の声を誌面に反映していきたい」(前田氏)という。



 これまで出版業界は、雑誌のブランド力などがあってもモバイル展開においては素人で、ケータイでビジネスを手がけようという発想を持つ会社は皆無に等しかった。女性ファッション誌の通販ビジネスは、S Cawaii!(主婦の友社)などがパソコン向けに手がけている程度。小学館のCanCamなどは、パソコン向けでのコンテンツの提供に留まっている。

 一方、ケータイ業界、特にコンテンツプロバイダーなどは、柔軟な発想を持ち、モバイルでビジネスを展開しようという気概はあっても、ブランド力がないために、ユーザーを集める段階で疲弊してしまうケースが圧倒的だった。

 雑誌のブランド力と、クレジットカードを引っさげ、ケータイ業界で新たなビジネスモデルを構築しようとする講談社。電子書籍だけではない出版業界からのアプローチとして、他の出版社も学ぶべき点が多そうだ。(2007.9.6/日本経済新聞)
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by fbitnews2006-6 | 2007-09-06 11:35 | インターネット総合  

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