仮想世界に踏み込む「Augmented Reality」ゲーム

思わずキャラクターの手をつかもうとしてしまうほど没頭できる「拡張現実」ゲームが携帯で楽しめる日が来るかもしれない。

アトランタ(Associated Press)
 バーチャルリアリティ装置を身に着けているのに、目の前に広がるのは何の変哲もない光景。ビデオゴーグルなしでも見られるシンプルなリビングルームだ。

 だが、いったんゲーム「AR Facade」がスタートすると、スペースインベーダーが懐かしくなるかもしれない。このゲームでは、30代の夫婦、トリップとグレースがひどいけんかをしている気まずい場に居合わせることになるからだ。

 仲裁役になって仲直りの手助けをするか。グレースのおしゃれなスタイルをほめたり、友人のトリップの肩を持つふりをしたりして、彼らをたきつけるか。それとも、彼らの言い争いがエスカレートしても、何事も起こっていないかのように振る舞うか――。

 どの選択をするにしても、ジョージア工科大学の研究所で作られたこの参加型ドラマは、時によって面白かったり、戸惑わされたり、興味をそそられたりするが、常に変わらないのは、インパクトが強烈で、精神を消耗させられることだ。

 「AR Facade」は、仮想世界と物理的現実を融合する「Augmented Reality(拡張現実感)」技術を利用したゲームだ。AR技術はまだ新しいが、いずれは携帯電話のようなシンプルな機器でこうしたゲームが楽しめるようになるかもしれない。

 これまでのところ、研究者はARの可能性をエンターテインメント分野で開拓しているようだ。

 サウスオーストラリア大学の研究者は、人気のシューティングゲーム「Quake」のAR版を開発した。これは、ヘッドマウントディスプレイ付きの特殊ヘルメットとバックパックを身に着けたユーザーが、街の中を歩き回り、風景に重ねてディスプレイに映された、自分にしか見えないコンピュータオブジェクトと戦うというものだ。また、シンガポール大学で開発された「Human Pacman」ゲームは、街路に沿って仮想の黄色いドット(クッキー)を置くもので、プレイヤーはパックマンか、パックマンを捕らえようとするゴーストになれる。

 一部の研究者はAR技術をより実用的な分野に応用している。

 ニュージーランドの研究者マーク・ビリングハースト氏の「Magic Book」は、ヘッドマウントゴーグルを付けてページをめくるごとに画像が飛び出して見える、子供向けの3Dアニメーション絵本だ。また同氏は、「ARテニス」の開発にも参加している。これは携帯電話の画面に、実際のテーブルにオーバーレイされた仮想のコートが表示され、携帯電話をコントローラとしてボールを打ち合うものだ。

 「5年以内に、家や学校、病院、職場、あるいは車の中で、携帯電話を使ってARアプリケーションを簡単に体験できるようになるだろう」とビリングハースト氏。「最もエキサイティングなことの1つは、現行世代の携帯電話は、魅力的なAR体験を提供するのに必要な処理能力、表示解像度、カメラ品質を備えていることだ」

 調査会社IDCのゲームアナリスト、ビリー・ピジョン氏は、この分野は有望であり、特に、携帯電話やそのほかのハンドヘルドデバイスのコンピューティング能力の向上が今後活用されればなおさらだと語る。

 「業界としてどこまで定着するかは分からないが、資金が入っていくのは間違いない」と同氏。「モバイル環境でゲームとインタラクティブエンターテインメントをリンクする方法はたくさんある。ポータブルデバイスはますます強力になっており、ネットワークも同様だからだ。この分野は伸びると思う」

 トリップとグレースの「AR Facade」が開発されたジョージア工科大学では、研究者はAR技術を利用して「インタラクティブドラマ」を作っている。

 こうしたゲームは、「映画とビデオゲームの中間に位置するものだ」とジョージア工科大学の博士課程の学生で、人間中心コンピューティングプログラムを専攻するスティーブン・ダウ氏は語る。

 「結果をある程度自分で選ぶことができ、どうやって勝つか作戦を立てられる」と同氏。「ある意味で、これは人々が俳優として参加できる劇場や舞台だ」

 ジョージア工科大学の研究者は、映画を題材にした「Four Angry Men」というゲームを開発している。このゲームではプレイヤーは、父親を殺した罪に問われた少年にどのような評決を下すべきかを討論する。

 一方、「AR Facade」は、従来型のPCゲームを発展させたものだ。5年以上の開発期間を経て、無料のPCゲーム「Facade」がまず登場した。プレイヤーがコメントを入力して、口げんかをしているカップルとやり取りするものだ。Facadeは30万回以上ダウンロードされており、高度な人工知能システムが批評家から称賛されている。

 ダウ氏をはじめとする研究者は、1年をかけてこのゲームを現実世界に再現することに取り組んだ。研究施設内にリビングルームを造り、カウチ、ミニバーを置いて壁に絵を飾り、電話など家庭の一般的なアイテムをそろえた。実際、トリップとグレース以外はすべて実物だ。この2人のアニメーションキャラクターだけは、プレイヤーが背負うバックパックに取り付けられたノートPCの画面と、プレイヤーが装着したヘッドマウントディスプレイでしか見えない。2人の仮想の言い争いは、快適なイヤフォンセットから聞こえるようになっている。

 この研究の目的は、人間とコンピュータの相互作用に対する理解を深めることにある。ダウ氏が数十人のゲーマーを調査したところ、キャラクターと対立してしまう人や、口論が激しくなると感情的になる人などが観察された。あるゲーマーは物理的にけんかを止めようとして、仮想キャラクターが部屋から出て行くのを引き止めようとしたところで、相手が映像であることを思い出した。

 ゲーマーがFacadeの世界に入るために身に着ける機器は仰々しいが、そのシステムの稼働に必要な処理性能は、ゲーム機のXbox 360で提供される程度のものだ。

 「家のゲーム機でこのシステム全体を動かすことができるだろう」とジョージア工科大学コンピューティング学部のブレア・マッキンタイア準教授は語る。

 プロの声優が録音した何千行もの会話が、若いカップルのセリフとして再生される。プレイヤーが話すと、舞台裏で研究者がそれをコンピュータに打ち込む。Facadeのドラマ、会話、さらにはトリップ(押しの強い金髪の男性)とグレース(魅力的で気まぐれなブルネットの女性)の表情も、コントロールする幾つかの複雑なアルゴリズムエンジンにより、その入力内容に応じて特定の反応が返される。

 数百種類のストーリーの流れと7種類の結末が用意されており、結末のほとんどは意地悪なもので、トリップかグレース、または両方が、プレイヤーをアパートから追い出してしまう。ごくまれにしか到達しない1つの結末は、ほぼハッピーな終わり方といえるものだ。

 この不機嫌なカップルは、例によって休暇やホームドクター、仕事、さらにはワインの選択をめぐって言い争う。そしてゲーマーがある戦術を取ると、感情的に、大声で、時には下品な言葉使いでけんかを始める。しかしやがて、彼らが素直になる瞬間が訪れ、その変わり目はプレイヤーにもほぼすぐに分かる。

 それは、グレースがずっと落ち込んでいたことを認め、自分はトリップに従うことにしていると神妙に話すときだ。そしてトリップは、自分がお金にうるさいのは、保護施設で6カ月暮らすなど、厳しい環境で育ったことに原因があると打ち明ける。

 彼らはようやく歩み寄り、とりあえず休戦して自分たちの問題点を話し合うことにする。

 しかし、今度は彼らだけで。

 ありがたいことだ。(2007.6.14/IT News)
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by fbitnews2006-6 | 2007-06-14 18:41 | 周辺機器  

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