クロスメディア時代にテレビ局が失う広告のパイの大きさ

 このままではテレビCMはネット広告に押され市場の幾ばくかを失ってしまう。問題はそれが1割なのか2割なのか、あるいは5割なのかという違いである。これを食い止める特効薬が「クロスメディア」広告であり、同時にそれがグーグルや楽天のような企業が参入する大きなチャンスとなる。前回述べたデジタル化しつつあるテレビCM流通市場の流れの中で、これからのクロスメディア的な広告ビジネスについて考えてみようと思う

■クロスメディアとメディアミックスの違い

 マーケティング的な言葉遊びになりがちだが、わかりやすく言えば「メディアミックス」は新聞、雑誌、ラジオ、テレビにそれぞれ何割ずつ振り分けましょうかという「分配の話」で、広告会社の営業トークみたいなものだ。これに対して「クロスメディア」はマス4媒体にデジタルサイネージ(ネットワークに接続されたディスプレーなどによる電子看板) が加わり、さらにネットとケータイの双方向性が追加された「繋がり」の話で、IT企業の営業トークだと私は区別している。これらの差違を詳しく議論することにはあまり意味を感じないが、クロスメディアはユーザー側が単純な受け身ではないという点でこれまでと異なるのは確かだ。

 クロスメディアを考えるときには、ネットだけではなくケータイとデジタルサイネージを忘れてはいけない。サイネージ自体はテレビのようなマス的な強力なリーチを得られない。ここだけで完結しようとすると所詮は二流のメディアから脱却できない。しかし「その場所」とか「その時」という意味を持ったリーチは実は在宅メディアであるテレビがもっとも弱い部分だ。だからクロスメディアに意義がある。

 テレビはF1(女性20歳~34歳層)、M1(男性20歳~34歳層)のような大雑把なセグメントしかしていないと認識されている。実際にはそうでもなくもっと詳細に定めているのだが、その先にさらに進んでいるわけでもない。

 世のマーケティングの潮流では性別、年齢、職業、趣味から購入履歴などのセグメンテーションをどんどん複雑化していこうとしている。「40歳・既婚・男性・会社員・持ち家・年収700万円・趣味ドライブ」をロジカルにターゲットとするのも悪くはないかもしれない。しかし「いま渋谷のハチ公前にいるあなた」というセグメントで呼びかけられたほうが、「それは私です」と人は振り向いてしまうものである。

 これからは「いま」と「ここ」の分析を緻密に行うことが重要になってくるはずだ。「いま」については季節、時間、天候、昨日の高視聴率テレビ番組、ブログやSNSなどがパラメータとして有効だろう。「ここ」は消費の現場との距離が重要だ。要するに店の近くにいるターゲットをどうやって引き寄せるかという話であるが、これは全国規模で広告を流すナショナルスポンサーよりはかなり地味な部分で効果を表すように思える。例えば、レストランなどの空席情報と連動した駅前のサイネージは有効ではないだろうか。普及はビラ配りのコスト以下で実現できるようになるかどうかが鍵だろう。



 マスに対して絨毯爆撃をするテレビCMと、ピンポイントの局地戦を狙うデジタルサイネージ、それをつなぎ合わせるツールがパーソナルなディスプレーを備えた携帯電話だ。

 私は携帯電話のサイネージ的利用には2つのメリットがあると考えている。1つはいつも持ち歩いていること、言い方を変えれば位置情報が得られることだ。位置情報を収集してもかまわないというパーミッションをきちんと取得し、その価値があるサービスを提供することができれば常に新鮮なマーケティング情報を収集可能であり同時に提供可能でもある。

 もう1つは携帯をリモコン的に使うという発想だ。デジタルサイネージは屋外に設置されるので、インタラクティブな操作を行うためには装置が必要だ。これを維持管理するのはコンビニのキオスク端末がそうであるように、故障や乱暴な使用に対するメンテナンスコストが大きい。その点もともと通信機能を備えている携帯電話を使うというのは賢明な選択なのである。

■クロスメディアでこんな広告の未来が

 クロスメディア的な広告の具体例をイメージしてみよう。たとえば商品がクルマだとしてテレビでインパクトのあるCMをオンエアする。もちろん「続きはWEBで」という検索窓がついている。WEB上ではメーカーからの詳細説明に加えてブログが設置されており、ネガティブな話にもきちんと対応している。

 さらにガソリンスタンドに設置されたデジタルサイネージでは給油を始めると同時に車の燃費の良さをアピールする映像が映し出される。エコ繋がりで電球型蛍光灯とのダブルスポンサーというのもいいだろう(地上波テレビではダブルスポンサーは基本的に認められていない)。さらに続いて清涼飲料水のCMが流れる。もちろん目の前の自動販売機で購入可能だ。ケータイはもちろんカーナビも重要なメディアとなってくるに違いない。

 このときにテレビCMとサイネージとWEBのコンテンツはそれぞれの特性を踏まえ異なる内容になるはずだ。異なる広告主の商品のCMを、同じ場所にある異なる媒体でそれぞれ流せるように広告会社がプランニングするのは、システム的に連携していないと不可能だ。そのためにはこれらを正しく紐づける必要があり、それにはタグのようなメタデータとそのための処理ロジックが不可欠になるのである。



■たとえばグーグルはどうするのか

 そしてこのあたりになってくるとグーグルの姿が見え隠れしはじめる。彼らがこれまでの手法でテレビ広告業界に参入するためにはこのメタデータを必要とするはずだ。そのための方法は2種類しかなく、テレビ局から入手するか、自分で作るかである。

 前者はテレビ局との何らかのアライアンスを意味することになり、全米のFM局を600局以上所有するクリア・チャンネル・コミュニケーションズとの提携などはそういう動きだ。後者の場合は自分でモニタリングあるいはネット上から収集することになるが、この場合の決定的な問題点は放送後にしかデータを入手できない点だ。もっともリアルタイム視聴が本当に意味をなさなくなるのであればこれでも十分可能だろう。

 テレビCMの流通がデジタル化、ネットワーク化されようとしていくなかで、どこまでがオープンになっていくのか。おそらく2011年のアナログ停波に向けてこういう動きが徐々に活発化していくだろう。クロスメディアを意識した発想を持ったマーケティングや事業デザインが必要なのは間違いない。私はこのまま放っておけばテレビは3割くらい市場を失うと考えている。これが5割ならさすがに大騒ぎになるところだが、元がリッチなので3割は許容範囲という意識がどこかにあるとすれば、チャンスは他社のものとなるのだろう。
(2007.5.13/日本経済新聞)
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by fbitnews2006-6 | 2007-05-13 10:09 | インターネット総合  

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