「アントニオ」と「猪木」の関係を知らない検索エンジン

 読者の皆さんは、「アントニオ」という言葉から何を連想されるだろうか。日ごろエレガントを自任する隣席の女性上司に聞いてみたところ「猪木以外には考えられないでしょう?」と。猪木なくしてアントニオなし――彼女のたくましさの理由が、少し分かった気がした。(梅澤俊雄)

 冒頭から脱線しそうになってしまったが、それはさておき、単語に寄せるイメージは人によってまちまちである。旅行好きは建築家のガウディを挙げるだろうし、ボサノバファンには音楽家のカルロス・ジョビンがアントニオの代表かもしれない。少なくとも先の上司には、嘘でも「ガウディ」と答えて欲しかったとは思う。

 ヤフーでの検索回数を調べられるキーワードアドバイスツールを使い、「アントニオ」を含む検索キーワードを調べて見たものが下図だ。実際に検索エンジンに入力されたキーワードと、それぞれの検索回数が出ているので、世の中の「アントニオ」需要の大勢が見て取れるだろう。




 前置きが長くなったが、今回のテーマは、このアントニオ系キーワードのシェアに対して、検索エンジンがどのような答えを返しているかを確認すること。検索キーワードはユーザーの需要を反映するのに対して、検索エンジンはその情報需要に対する答えを供給する存在だ。いわば、検索を介した需給バランスという観点から、検索エンジンの働きぶりを調べようという試みだ。

 そこでまず話を単純化して、日本で有名な検索エンジン2つで「アントニオ」検索を行い、その結果画面内の猪木氏に関連したコンテンツの出現率を測り、上で見た72%という数値との違いを調べる。

 なお、大半のユーザーが検索エンジンの結果画面を見るのはほぼ2ページ目までという傾向があるので、検索結果の1位から20位までに限定させていただいた。

 すると、検索エンジンAでは20位までの間に、猪木氏に関するウェブサイトが全部で6件表示されていた(30%)。一方検索エンジンBでは、全部で4件(20%)という結果だった。この時点で両者とも、キーワード側の需要である72%という数値を大きく下回っていることが分かる。

 では、ランキングが持つ「価値」(重み)を考慮に入れるとどうか。

サイトの順位が1つ下がる毎に、検索者からの注目度が10%ずつ低下すると仮定した場合、1位から20位までの重みの合計に対する猪木氏関連サイトの比重は、検索エンジンAで33%、検索エンジンBで11%となる。

 また念のため別のキーワード「ジャイアント」でも同じことを試してみると、更に、検索キーワードからの需要に対して検索エンジンA・B共に低い水準にとどまった。















 この一連の考察をどう評価するかは、難しい問題だ。かなり単純化した前提のもと、2つのキーワードだけを取り上げているし、そもそもキーワードの選び方に必然性がないとの指摘があれば、それはごもっともだろう。

 しかし現在の検索エンジンは、「アントニオ」や「ジャイアント」といった幅広い連想が可能なキーワード(「ビッグキーワード」)には、やはりあまり向かない傾向がある。検索キーワードに見られるユーザーのダイレクトな需要は、必ずしも検索結果が返すリストの分布と一致しないのだ。

 昨今では複数の単語を組み合わせた“ロングテール的検索”が、キーワード入力方式の主流になっている。いくつかの単語を入力すれば、検索結果におのずと絞り込みがかけられるからだ。

 昨年実施した検索エンジンへの入力語数に関する調査では、2単語以上を入力すると答えたユーザーが、全体の80%以上を占めた。








 もともと検索エンジンは、ページ内の文章やウェブサイトをつなぐリンクなど、基本的にインターネット内部の要素で順位決めをしている。もちろんその処理によって、質の高いコンテンツを持つページを探せているわけだが、ウェブサイト同士の関係を前提とする以上、本来的には生身の人間のニーズに直接対応した仕組みではない。このことは、「ビッグキーワード」のように複数のニーズが競合する場面でこそ、先鋭化しているのではないだろうか。

 複数の単語を並べれば、欲しい情報が見つかるのは確か。しかしこれは、そのような検索エンジンの内在的性質に対して、ユーザー側が見せた歩み寄りの結果と捉えることもできよう。

 ただ、上の円グラフでいくと、検索の際に1単語を入力するユーザーは、まだ11%存在する。現在、検索エンジン各社はこの11%に、ビッグキーワードを含んだ関連キーワードを見せることで、対応を図ろうとしているようだ。









 しかしこれでは、組み合わせワードをもう一度検索することと一緒であるし、ユーザーが一番注目するのは通常のランキング部分だ。

 個人的には、ユーザーから入力される組み合わせワードのデータベースを元にして(例えば「猪木」「バンデラス」「ジョビン」など)、ビックキーワードに寄せられるニーズの内訳を分析し、その結果を逐一検索順位の算出に組み込める方式がいいのでは、と思う。

 陳腐な言い方ではあるが、生身の世界とネットの世界のちょっとした段差をなくすことができるのではとも考えている。
(2007.4.17/日本経済新聞)
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by fbitnews2006-6 | 2007-04-17 11:48 | インターネット総合  

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