Vistaは躍進できるか






 かつて、これほどまでにマイクロソフトが生みの苦しみを味わった製品はないだろう。2006年11月、ようやくWindows Vistaの出荷が開始された。2007年に向けて、プラットフォームとしてのVistaは躍進できるのだろうか。

 2006年11月30日、マイクロソフトがこの5年間歩んできた長い道のりに1つの到達地点が見えた。この日、同社の最新クライアントOSであるWindows Vistaの企業向けライセンス提供が開始された。

 2001年のWindows XP以来、5年ぶりのリリースとなるWindows Vista。多くの新機能と新趣向のアピアランスを武器に、まさに満を持しての登場だ。だが、ここへたどり着くまでにはあまりに多くの出来事があった。マイクロソフト日本法人社長のダレン・ヒューストン氏は、11月30日に開かれた記者会見で「長い道のりだった」ともらした。5年ぶりという数字もさることながら、機能の面からもリリース時期の点でも、当初の予定とは大きく異なった製品となり、本当にようやく出荷にこぎつけたという感があるからだ。

●Vista、開発スタート

 Vistaの開発スタートは、XPのリリース後、Windows Server 2003(当時の呼称はWindows .NET Server)の最終段階の開発と並行して行われたと思われる。当時はまだ「Longhorn」という開発コードネームのプロジェクトであり、Windows XPのリフレッシュ版という位置づけだった。その後、次世代のWindowsとして語られるようになったものの、既存のWindowsよりも強固なプラットフォーム基盤、刷新されたUI、Win32に代わる新たなAPIセット、強力なデスクトップ検索などといった漠然としたキーワードから、われわれはその姿を想像するしかなかった。だが、2002年10月に開発途中のバージョンがインターネット上にリークし、WinFSやサイドバーといった機能の一部を見ることができたという。

 翌2003年、Microsoftはそれまで2004年後半としていたリリース時期を大幅に見直し、2005年にずれ込むことを明らかにする。3月には初めてα版が披露され、続く5月の「Windows Hardware Engineering Conference5」(WinHEC)ではようやく一般の開発者に向けて公開が行われた。ところが10月、WinFSやセキュリティに関連する機能についてさらなる開発の遅れが明らかになり、出荷は2006年になることが濃厚となる。

 そして2004年4月と7月には、セキュリティを重視するXP SP2の開発優先による人員不足の余波を受けたとして、二度のVista β版リリース延期が明らかにされた。このとき、Windows開発の責任者だったジム・オールチン氏はビル・ゲイツ氏に対して、「開発を最初からやり直す必要がある」と告げたという。その結果、ソースコードの多くが廃棄された。

 ことの真偽はともかく、2004年8月には当初予定されていた機能をそぎ落とした「新しい」Longhornが発表された。

●LonghornからVistaへ

 2005年7月22日、それまで開発コードネーム「Longhorn」で呼ばれてきた次期Windows製品は、正式名称「Windows Vista」を与えられた。英語の「view」に当たるイタリア語が語源で、Microsoftでは「未来への展望」という意味を込めた。直後の27日にはようやくβ1をリリース。ただし、「カンバスは完成していない。(機能の)半分も色を塗っていない」(Windowsクライアント部門グループプロダクトマネジャー、グレッグ・サリバン氏)。この時点で製品の出荷時期は2006年10~12月期とされた。

 2006年2月26日、MicrosoftはVistaの製品ラインアップ、コンシューマ向けと企業向けの全6種類を発表するも、3月21日、ジム・オールチン氏はVistaのコンシューマー向けリリースが2007年1月にずれ込むことを明らかにする。全体的な開発スケジュールの遅れから、一般消費者に向けたVista搭載PCをクリスマスシーズンまでに市場へ投入するには準備期間が不足しているという、ハードウェアベンダーおよび小売業界の意向を受けたものとされた。ちなみに2001年発売のWindows XPでは、8月24日にRTM完成、10月25日に発売となり(パッケージ版は11月16日発売)、年末商戦に向けた態勢づくりには十分な期間があった。

 5月23日、シアトルで開催された「Windows Hardware Engineering Conference 2006」(WinHEC 2006)でβ2が公開された。それ以前に配布され酷評を浴びたβ1およびマイルストン版よりも性能と互換性を高めた、はずだったが、実際は見違える効果を体感することはできなかった。この時点でβ版完成度の低さを見たGartnerは、リリースがさらに遅れる可能性を指摘した。

 リリース候補となるRC1が公開されたのは9月1日、Amazon.comでは前日より価格表示付きで予約受付を開始した。このRC1版において、ようやく動作速度や安定性に関して満足できるレベルが提供された。マイクロソフト日本法人 Windows本部長のジェイ・ジェイミソン氏は、パフォーマンスチューニングが開発の最終段階まで行われていたことを明らかにしている。

●Vistaで変わるコンピューティング

 Vistaが次世代Windowsプラットフォームとして提供するものは多い。それらがどのような影響を与えるかを考察してみる。

 まずはAeroに代表されるPCの新たなルック&フィールだ。だが疑問はある。3Dがユーザーへどのようなメリットをもたらすのか。

 使い手にとってのメリットは、より多くの情報を分かりやすく可視化してくれることだろう。PCの二次元のディスプレイ画面に3D表示の要素を取り入れることで、現実世界と似たような距離感をPC画面に感じることができるようになる。扱いやすさが生まれるのだ。しかしそれをアプリケーションがどう使うかは、開発者やアプリケーションデザイナーの手腕となる。アプリケーションベンダーがここにチャンスがあると見るかどうか、この点に、Vistaリリース後に「Vista必須」のアプリケーションラインアップが出揃うか否かのカギがある。

 もちろん、すでにVistaに向けたアプリケーション開発を行っている企業はある。彼らによれば、WPFとWCF、WFといった.NET Framework 3.0のコンポーネントを利用することで、従来よりも短時間でアプリケーション開発が完了するという。こうしたコンポーネントが有効に機能するアプリケーションを作成する場合は確かにそのとおりだ(逆の場合もありうるだろう)。ただし、.NET Framework 3.0は現行のXPおよびWindows Server 2003に向けても提供されるため、.NET Framework 3.0対応アプリ=Vista必須アプリではない。

 また、デスクトップ上で動いている小さなアプリケーションであるサイドバーガジェットは、ネットワークからデータを取り込んでさまざまな情報をユーザーにインタラクティブに提供する。スタートメニューから起動するよりも簡単で、ローカルアプリケーションとネットワークサービスの区別を意識することなく利用できる。しかも、スクリプトをベースとしたプログラムなので、作成の敷居が低いことも普及の要因となるだろう。こうした点から、ガジェットもアプリケーションのあり方を変えていく技術であることは間違いない。

 企業にとっては、Vistaのセキュリティに関する機能の有用性がポイントとなるだろう。今やWindows XPは、ほぼすべてのユーザーにとって十分な機能とセキュリティのレベルを提供していると言える。となると、Vistaへの移行は必要なしと考えることもできる。だが、今は十分でも、半年後あるいは一年後にそれらが十分なものであり続けられるかは誰にも分からない。もちろん、そのときこそ移行のタイミングだと考えても良い。

 しかしながら、特に企業においてもデスクトップ機よりノートPCの利用率が高くなった現在、携帯中に紛失したノートPCから機密情報が漏洩するといったすでに起こりうる事態を防ぐために、USBメモリとの組み合わせによってのみPCを起動することができ、しかもHDDの内容を強力に暗号化できるVistaのBitlocker機能は十分に移行の動機になるだろう。USBキーとノートPCを同じ1つのカバンに入れたまま紛失しない限り、万一PCが第三者の手に落ちても情報は守ることができる。この機能のおかげで、Vistaの企業導入がむしろノートPCを牽引力として進むことも予想できる。ノートPCでの利用率が高い統合型グラフィックスチップの高性能化と、2.5インチおよび1.8インチHDDの大容量化および低価格化が進むことが、この流れを加速する条件になる。

 早期にコンシューマー分野への普及が進むと言われているVistaだが、マイクロソフトの中川哲 ビジネスWindows製品部長は、「XPでは3年強かかった企業導入率50%超を、Vistaでは1年半で実現したい」と言う。WinFSや(検索フォルダではなく)仮想フォルダなど、今は亡き機能たちへの惜別の思いはあるにせよ、上で述べたようなプラットフォームとしての革新の有用性が企業に理解されて行けば、この目標もそれほど無理なく達成できるかもしれない。

(2006.12.27/ ITmediaエンタープライズ)
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