セイコーインスツルが目指す、「BT Watch」の可能性




SIIの開発した実験機。有機EL周辺以外は研究室にあった部品や技術を組み合わせて作成したため、本体サイズについてはやや大振りとなっている 写真:ITmedia
 
 シチズン時計の「i:VIRT(アイ:ヴァート)」に注目が集まっているが実は、2006年3月に同様のコンセプトを持つ実験機を開発したメーカーがある。腕時計型PC「Ruputer(ラピュータ)」、腕時計型PHS「WRISTOMO(リストモ)」と、常に業界に一石を投じる腕時計型端末を手がけてきた、セイコーインスツル(SII)だ。同社に携帯+腕時計の可能性を聞いた。

●「BT Watch」と「i:VIRT(アイ:ヴァート)」の違い

 2005年12月、モバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)において「BT Watch」という規格が誕生した。Bluetoothを搭載する時計のための規格で、すでに実用化されているBluetoothのハンズフリープロファイル(HFP)を拡張したものだ。

 BT Watchを利用すると何ができるのか。腕時計と携帯電話を常時接続するための標準手段「BT Watch TR-006 ver.1.0」では、同規格に対応する携帯電話との情報のやり取りが可能になり、音声着信やメール着信時に相手の電話番号やメールアドレス、発信者名などを表示できるようになる。

 ここで意外に思うかもしれないが、7月7日に発売される「i:VIRT」にはメール通知の機能はない。現在発売されている携帯電話がBT Watchに対応していないためであり、シチズン時計では商品認知を図るため、あえて現状のHFPのみで商品化を行ったという。そのためi:VIRTは、Bluetoothロゴ認証の観点からはハンズフリー分野の商品となり、(実装はされないが)内部的にはマイクとスピーカー機能が搭載されているものと見られる。

●実験機開発の目的

 「BT Watchに対応した携帯電話が存在しないので、Symbian OSを採用するボーダフォン端末を使って、シリアルポートプロファイル(SPP)上でこの機能を使えるようにしています」と、ゼロから開発した苦労を話すのはセイコーインスツル ウェアラブルマーケティング部長の田中淳氏。新しい製品を提案する場合には、プレゼン資料を何枚も持っていくより、きちんと動作する実物を見せたほうが話が早いというのが、実験機を作った経緯だ。

 田中氏は「BT Watch実現のポイントはBluetoothにあるが、逆にBluetoothであるがゆえの問題が3つある」という。1つ目は、国際規格でもあるBluetoothは、Bluetooth SIG(Special Interest Group:Bluetooth規格における非公開/非営利の産業団体)で認められる必要があるということ。つまり一部の団体が勝手に規格を拡張することができない。2つ目は、携帯電話に実装されないと使えないということ。早期から携帯電話メーカーを巻き込んで一緒に開発していく必要がある。

 そして3つ目は、SIGで認可されてもキャリアが採用するとは限らないということ。これはBluetoothが登場してからかなりの時間をかけて、ようやく現在の状況に至ったことからも推測できるように、ビジネスモデルが確立していない無線通信の分野では、互いの思惑が複雑に絡み合う。また、キャリアの足並みも揃うとは限らない。メーカーやキャリアを説得するためにも、実験機の開発は必要不可欠であったわけだ。

●腕時計で何をするか

 SIIが開発した実験機ならメールの着信を知ることはできる。しかしメール本文を読む機能はない。本体に搭載するメモリ容量が少ないという技術的な事情のほか、メール本文を読む必要性については十分な議論が求められるからだ。BT Watchは携帯電話と共存するシステムであって、腕時計単体に通信機能やメール作成機能を持たせる必要はない。仮にそうした機能を持たせたとしても、ここまで進化した携帯電話の機能にはやはり及ばない。

 腕時計に向かって話しかける通話機能も同様だ。時計は時計として“携帯電話をサポートする”程度の機能がちょうどよいというところだろう。携帯電話で届いたメールを読むと、腕時計側の未読表示もすぐに消えるなど、うまく連動できれば使い勝手は悪くないと想像できる。

 ところで時計と携帯電話の役割分担という点では、じつは面白いことが起きている。

 時計の世界では電波時計が標準になりつつあり、もはや時刻調整の必要はない。一方の携帯電話も、GPSや基地局の情報から正確な時刻を得られるようになってきているため、調整の必要もなくなってきている。まだ電波時計が実装できないBT Watchでは、その携帯電話側の時計情報を得て、正確な時刻を保つという仕組みになるようだ。時計自らが時を刻むのではなく、携帯電話の第3のディスプレイと化してしまうわけである。

 しかし第3のディスプレイとして機能した場合、使い勝手が著しく向上することも想定できる。カバンやポケットの中にある携帯電話の受信する電波の強さやバッテリー残量なども確認できるようになる、圏外だから移動しようとか、バッテリーが切れそうだからショップに立寄ろうという判断も即座に行えるようになるだろう。また、海外でも使える携帯電話が増えてくれば、現地時刻への切り替えを携帯電話に任せることもできる。これこそが、携帯電話と腕時計の共存する理由であり、情報機器としての腕時計の新たな可能性である。

●商品化への課題

 BT Watchの登場までまだしばらく時間がかかる中で、シチズン時計が「i:VIRT」を発売したことについてはSIIも注目している。では同社で実際に商品化されるのはいつだろうか。機能面では先行しているように見受けられるし、実験機開発のニュースリリースでは、2007年の商品化を目標にするとしている。

 なお、「この商品に不可欠な機能としているのがメール通知機能。2007年になってもその機能が載せられないのであれば、商品化はできないと考えています」と述べるように、i:VIRTと同じスペックの製品を出す考えはないようだ。

 実際、腕時計にBluetoothを搭載しただけの試作機も同社内でいくつも作成されており、i:VIRTほどの本体サイズ/機能を備えるものならすぐに実現できるレベルにあるという。しかし「メール通知機能は外せない」──これが同社の強い意思だ。

 メール通知機能はすでに実験機で検証され、技術的にはそれほど高いハードルではないように思われる。しかし、BT Watchがハンズフリープロファイルを拡張した規格であることが議論の的になっている。「ハンズフリープロファイルは、車の運転中などに利用することを想定しているため、メールに関しては一切サポートしないことになっている」というように、BT Watchの実現にはまだ課題が残されている。

 今後、具体的なデモンストレーションを繰り返し実施することにより業界全体がこの市場に着目するのであれば、同社の開発した実験機の持つ意味は非常に大きかったといえるようになるだろう。腕時計市場のみならず、モバイル市場に一石を投じることができるのか。BT WacthとSIIの今後に期待したい。


(2006.7.6/+D Mobile)
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by fbitnews2006-6 | 2006-07-06 18:12 | 周辺機器  

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